東京都世田谷区の保坂展人(のぶと)区長は11日、同性カップルの住民票の続き柄欄に、事実婚の状態であることを示す「夫・妻(未届)」との記載を取り入れる意向を明らかにした。区によると、実際に取り入れれば、都内の自治体では初めてとなる。地方発の動きが首都圏にも波及してきた格好だ。
区議会の一般質問で、上川あや区議に導入の意向を問われ、「早急かつ具体的な検討を準備する」などと答えた。
日本では法律で同性同士の結婚が認められていない。そのため、同性パートナーは異性同士で結婚した人が得られる権利を与えられていない。
こうした課題を解決する一歩として期待されているのが、住民票の記載だ。区長が導入の意向を示した「未届」の記載は一般に世帯主と、異性の相手との「事実婚」を示す際に使用される。
異性間の事実婚は、200超の法令が「事実上婚姻関係と同様の事情」とし、法律婚と同様に扱うようになっている。事実婚を示す「未届」の記載は、住宅ローンの申請をしたり、企業の福利厚生を受けたりする際などにも、夫婦同様の関係を証明する資料として使用されている。
このため、同性カップルが自治体に「未届」の記載を求め、それに応じるケースが出てきた。長崎県大村市は先月、「世帯主」の男性のパートナーの求めに応じて、続き柄欄に「夫(未届)」と記載した住民票を交付。栃木県鹿沼市や、京都府与謝野町も同様の表記をする意向を示している。
「未届」の記載がされても、実際に事実婚と同等の権利を得られるかは現時点で、不透明だ。ただ、人口約92万人と都内の自治体で最も多い世田谷区が取り入れれば、追随する動きはさらに広がりそうだ。
区長の姿勢に同性カップルからは歓迎の声があがる。同性パートナーと約30年同居する、区内の福祉職員の50代の男性はこの日、議会を訪れ、半信半疑で議論を見守った。
区長の答弁に驚き、喜んだ。「当事者は自己肯定感の低い人が多い。こういう考え方がスタンダードになることで、特に若い人たちが、明るい未来を普通に考えられる世の中に変わってほしい」
区はこれまでも性的少数者(LGBTQ)の問題に取り組んできた。2015年11月、渋谷区とともに全国の自治体に先駆け、性的少数者のカップルを公的に認める、いわゆる「パートナーシップ制度」を導入。災害の死亡者とパートナー関係などにあれば、弔慰金が支給されるなどの行政サービスを受けられるようにしている。先月末までに241組から申請があり、受理したという。(中村英一郎)