中国で行われている陸上の世界室内選手権で、22日にあった女子3000メートルに出場した田中希実(ニューバランス)はレース中盤、集団の先頭に出た。頭にあったのは、9月に東京である世界選手権だ。
「いきなり世界陸上で前に出るとおじけづく。気持ちの抵抗をなくそう」
- 4種目で日本新、田中希実が室内大会に出る理由 「世界基準」の日常
この冬の室内レースは、海外選手の後ろにつくことが多かった。日本新記録を4種目で更新したが、世界での「勝負」を意識すれば、自ら前に出る勇気が必要だった。
この日の残り500メートル。ライバルたちがスピードを上げると、対応する余力はなかった。10位に終わり、「圧倒的な力の差を感じた」。
不安要素はあった。レース前日に明かしていた。「直前までばたばたしてしまって、選手としての自分と向き合う時間はあまりなかった」
この1カ月ほど、イベントや取材に引っ張りだこ。会場の中国・南京には、レースの2日前に到着した。その厳しい日程でも今大会に出たのは、トップ選手たちと真剣勝負をする経験値を積むためだった。
昨年は、世界最高峰の選手が集う「ダイヤモンドリーグ」に年間を通して参戦した。ポイント上位選手だけが競うファイナルでは、5000メートルで6位入賞。世界大会でメダルを取る選手たちと同じ時間を過ごし、「自分も、世界のトップ・オブ・トップになりたい」と決意を新たにした。
今後の屋外シーズンは国内でのレースを絞り、海外に挑戦する。4月から、米国やジャマイカで開かれる新設大会に日本選手でただ一人出場する。「私の場合、レースでしか学べないことがある」。この日の挑戦も無駄にはしない。