日暮れとともにカエルの声が響く福岡県宮若市芹田の農村に、世界各国から一流のミュージシャンが訪れる古民家がある。100年余りの暮らしに踏み固められた土間で楽器を奏で、聴衆を前に歌い、あぜ道を散歩してゆるりとすごす。そんな場となって今年で15年。この秋もコンサートが開かれる。新たな音楽が生まれ、出会える喜びが、人を引きつけている。
コントラバス奏者で宮若市出身の松永誠剛さん(39)が、祖母が暮らした古民家を住まいと創作の場に定めたのは2009年。米国やデンマークで修行し、音楽で身を立てられるようになったころだった。
土間に増築されていた部屋を撤去し、縁側にはアルミサッシに代えて昔ながらのガラス戸をはめ、家が建てられた明治初期に近い姿に戻して「想帰庵(しきおり)」(SHIKIORI)と名付けた。家族の想い(思い)が帰る庵(いおり)という意味だ。
奏でる音は土間に弾み、高い天井板や太い梁(はり)が柔らかに受け止める。コンサートを開くと演奏者にも聴衆にも好評で、評判は口コミで広がった。
電車も路線バスも走らない集落で、客席は50ほどしか設けられない。それでも、作曲・編曲家としてグラミー賞など多くの賞を受賞した米国出身のピアニスト、デビッド・マシューズ、現代最高峰とたたえられるスウェーデン出身のコントラバス奏者アンダーシュ・ヤーミーンら、世界のトップミュージシャンもやってきた。泊まりたいという人には部屋を用意し、繰り返し訪れる人もいる。
数日間滞在したあるミュージ…