タイとカンボジアの国境係争地付近で続く両国軍の軍事衝突で、世界遺産のプレアビヒア寺院が損傷したと、カンボジア政府が明らかにした。24日にタイ軍の砲撃で建造物が欠けるなどの被害が出たとし、武力紛争時の文化財保護を定めたハーグ条約に違反すると非難。攻撃停止を求めた。
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カンボジア文化芸術省の発表や政府関係者の話によると、24日にタイ軍が寺院やその周辺地域に対し、砲撃や空爆を実施した。建造物の大規模な崩落は起きていないが、建物の一部が欠けて破片が地面に散乱したり、敷地内の地面がえぐれたりしているという。
文化芸術省は24日夜に出した声明で「人類の共有遺産を危険にさらすだけでなく、国際法上の義務を明白に無視する行為だ」とし、戦争犯罪にあたる可能性があると指摘。「最も強い非難を表明する」と述べた。
全長800キロ超の国境線を接する両国は、プレアビヒア寺院周辺の一部国境の画定をめぐり100年以上にわたって衝突を繰り返してきた。
1954年にタイ軍が寺院を占拠し、カンボジアは国際司法裁判所(ICJ)に提訴。ICJは62年、寺院の主権はカンボジアにあると判断しタイ軍に撤退を命じた。しかし、2008年にプレアビヒア寺院がアンコールワットに続くカンボジアで2番目の世界遺産に登録されると、再び緊張が高まった。
カンボジアによる再度の申し立てを受けたICJは13年、寺院周辺の土地もカンボジアの一部だと認定した。しかし、タイ側は判決を受け入れていない。
今年5月にカンボジア兵1人が死亡する両軍の銃撃戦が発生したことなどを受け、カンボジア側は6月に再度、国境線の明確化などを求めてICJに提訴している。