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北こぶしリゾートのホテルスタッフとして働きながら「クマ活」を担当し、プライベートでは「知床ゴミ拾いプロジェクト」を展開する村上晴花さん=2025年6月、北海道斜里町、原知恵子撮影
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 ホテルの目の前の垣根に、バナナの皮が落ちている。

 「北こぶしリゾート」で働く村上晴花さん(30)は、それを拾いあげながら、やるせなさと憤りを感じていた。

 ここは、世界自然遺産「知床」の玄関口・斜里町のウトロ地区。あたり一帯は世界有数のヒグマ高密度生息地域として知られ、近年は「ヒグマの市街地への出没」が問題になっている。

 人間にとっては「生ゴミ」でも、クマにとっては魅力的な「食べ物」だ。味を覚えてしまったクマはおいしいエサ(=生ゴミ)を求めて人里に出没を繰り返したり、人間に近づくようになったりする恐れがある。

 安易な「ポイ捨て」は、人身被害はもちろん、「問題個体」とみなされ駆除の対象になるクマをも危険にさらすことにつながる。これは、地元では常識だ。

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 斜里町には、年間約100万人の観光客が訪れる。誰かが、軽い気持ちで捨てたのだろうか。

 プライベートで、仲間と定期的に「知床ゴミ拾いプロジェクト」を続けている村上さんは、いつも思う。

 「なぜ、こんな無責任なことができるんだろう?」

 空き缶、ペットボトル、プラスチックの袋、弁当ガラ、残飯……。

 ごみ拾いを5年間続けても、毎回、何袋もいっぱいになるという。

「自然バカ求む」→移住を決断

 村上さんが初めて知床を訪れたのは、酪農学園大学4年の夏休みだ。

 ヒグマを研究対象とするゼミに所属していた縁で、先輩からヒグマの骨格標本を作るアルバイトに誘われた。

 軽い気持ちで参加したら、圧倒的な大自然と絶景、そしてヒグマが身近にいる環境に魅了された。

 幼い頃から生き物や自然に関心があり、「環境共生学を学びたい」と大阪から北海道に進学。札幌市や浦幌町でもフィールドワークでヒグマの痕跡を追ってきたが、知床のインパクトはすさまじかった。

 初めて見た、駆除個体の解体現場。最前線で野生動物と向き合う地元の人たち。

 1週間の滞在期間で、今までの学びが、目の前でつながっていく感覚を覚えた。

 「ここに住んでみたら、面白いかも……?」

 直感からほどなくして、ユニークなキャッチコピーが目に入った。

 「自然バカ求む」

 それは、知床・ウトロ地区でホテルを運営している会社の求人だった。

 ホテル業界のことは正直、よく知らなかったが、「知床志望」で勢いのまま応募。最終的に1社で就活を終えた。

 「ホテルという業態は、知床に良い影響を与えているのだろうか」――。
働き始めて、そんな葛藤を抱き始めたという村上さん。どんな出来事があったのでしょうか。

充実の日々も…芽生えた違和感

 入社後はレストランに配属さ…

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