(23日、第107回全国高校野球選手権群馬大会準々決勝 前橋商1―5東農大二)

 4点を追う九回裏2死一塁、前橋商の3番打者・水谷琉樹斗(るきと)(3年)が打席に立った。「リラックス!」とチームメートが声を掛けてくれた。「ここで自分が1本打てれば――」。そう願ったが、振り抜いた打球は右翼手のグラブに収まり、試合は終わった。

 遊撃手として守備の中核を担う水谷は両投げ・右打ちだ。右投げ・両打ちの選手はたくさんいるが、逆は極めて珍しい。元々は右利きで、左投げになったのは訳がある。

 小学生のとき右ひじを痛めた。離断性骨軟骨炎。成長期に発症しやすい症状だ。中学3年のときに手術した。水谷は「野球が大好きなので、休みたくなかった」。とはいえ投げることはできない。ならばと、左投げを練習した。

 高校は春夏9回の甲子園出場を誇る名門・前橋商の門をたたいた。高校1年のときはリハビリを続け、左投げで練習に参加した。両手投げの経験はプレーに生きた。体のバランスがうまく取れるようになった。1年秋から公式戦にベンチ入り。2年夏には、3番・遊撃手として活躍。この年はエース清水大暉(19)=現・北海道日本ハムファイターズ=を擁して準優勝だった。決勝の健大高崎戦では無安打に終わり、「来年こそは」と捲土(けんど)重来を誓っていた。

 「苦しい時期があったからこそ、野球が楽しめる」と水谷。「打てなきゃ使ってもらえない」と下級生の頃からバットを振り込んだ。冨田裕紀監督(39)は「守備ではヒットになりそうな打球もうまくさばく。楽しんで野球をしてくれている。見ていてわくわくする選手」と話す。

 昨夏の経験値がありコミュニケーション力も抜群の水谷は、副主将として、主将で捕手の小板橋快斗(3年)とともにチームのまとめ役にもなった。

 この日の準々決勝、七回表の守備では難しい打球をはじき、失策の記録に。「切り替えろ!」。チームメートが励ます。「ごめん!!」と元気に応える水谷。攻守交代の時は守備位置まで常に全力ダッシュ。最後までチームを明るくもり立て続けた。

 2年ぶりの甲子園出場、そして2年前には果たせなかった甲子園で校歌を歌うことがチームの目標だったが、準々決勝で敗れた。試合後、水谷は「まだ高校野球が終わってしまった実感がない。明日から、朝早く起きてグラウンドへ行くことがなくなるなんて……」。喪失感をにじませながらも、「自分の素を出せるような楽しいチームで、みんなと最後まで野球をやりきることができてよかった」と語った。

東農大二、前橋育英が準決勝へ

 第107回全国高校野球選手権群馬大会(朝日新聞社、群馬県高校野球連盟主催)は23日、上毛新聞敷島球場で準々決勝2試合があり、ベスト4が出そろった。第1試合は2年前の夏に対戦した東農大二―前橋商。この年は東農大二が5回コールドで敗れ、前橋商が優勝した。今夏は終盤に強打を見せた東農大二が雪辱を果たした。第2試合で、桐生市商が4年前に敗れた前橋育英と対戦したが今夏も壁は崩せなかった。東農大二は8年ぶり、前橋育英は2年連続の準決勝進出。準決勝は25日にあり、健大高崎―東農大二、高崎―前橋育英の対戦となる。

終盤に打線爆発、東農大二が前橋商を破る

 ◎…緊張感のある好ゲームとなり、終盤に打線がつながった東農大二が前橋商を制した。

 東農大二は1点を追う八回、無死二、三塁から宮崎の中前安打で同点とし、続く荒井の右翼線二塁打で逆転。さらに1死二、三塁から半杭の二塁ゴロの間に宮崎が本塁に突っ込み加点、加藤がスクイズを決めるなど一挙5点を奪った。

 前橋商は四回、斎藤の適時打で先取点を挙げ、全イニングで走者を出したが追加点を奪えなかった。先発の堤は七回まで無失点と好投したが、終盤に力尽きた。

前橋育英、大会注目投手擁する桐生市商を攻略

 ◎…強打の前橋育英が、大会注目の好投手・小野を擁する桐生市商を攻略した。

 前橋育英は二回、1死一、二塁から片岡の2点適時二塁打で先制、同点で迎えた三回、1年生の新井が右中間本塁打を放ち、すぐさま勝ち越した。四回も片岡と中村の適時二塁打などで3点、五回にも長田の犠飛で1点を加えて突き放した。

 桐生市商は2点を追う三回、多田が2点適時二塁打を放ち同点としたが、中盤以降は相手の2投手に封じられた。小野が降板した後は、稲村、島田が粘投した。

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