ファクトチェック対象=インターネット上の言説
「日本人には奨学金で借金させて大学に行かせ、中国人には返済不要の1000万円を払い、無料で大学に行かせるっておかしいだろ。それ日本人の税金だぞ?本当にどこの政府だよ」(6月2日、Xへの投稿)
広がる言説、参院選の候補者も取り上げる
「中国人留学生に1千万円が支援されている」との言説はSNSで広まっている。参政党の複数の候補者が取り上げ、「留学生が1人1千万円、返済する必要の無い給付金がもらえる。日本の子どもたちは家庭の事情でやりたいこともできない」などと主張している。
文部科学省の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)は、優秀で志のある博士後期課程の学生が、研究に専念するための経済的支援として2021年度に始まった。「博士課程に進学すると生活の経済的な見通しが立たない」といった理由から進学をためらうケースが多いことが背景にあった。国籍の区別なく各大学が優秀な学生を選抜する制度だ。国籍によって優遇されることはない。
これに選ばれると、生活費に相当する研究奨励費として年平均220万円、研究費は年平均40万円が大学の裁量で支給される。3~4年の在学期間の平均支給額は780万~1040万円。
博士課程の優秀な学生に支給 6割は日本人
文科省によると、昨年度の博士後期課程の在籍者約7万8千人のうち、受給者は1万564人だった。うち日本人は6割、留学生が4割、留学生の最多は中国人で3151人。日本学生支援機構によると、昨年度の語学学校を含む中国人留学生は約12万3千人。SPRING受給者3151人が占める割合は2.6%となる。
「返済不要の1千万円」は、SPRINGを受給する中国人留学生に限っては正しい。ただ、日本人も対象で、中国人留学生だけが優遇されているような誤解を招く余地がある。
SPRINGについては3月に国会で取り上げられ、自民党議員が、留学生はごく一部に限るべきだと発言。文科省は6月、平均月18万円の研究奨励費について留学生を対象外とする方針を示した。
国費留学生と混同する言説も
また、優秀な留学生の授業料を免除し月十数万円の奨学金が支払われる国費留学生と混同して、問題視する言説もSNS上で広まっている。ただ、昨年度の国費留学生数はインドネシア、ベトナム、タイに続き4位が中国人留学生(617人)で、中国人留学生全体の0・5%にとどまる。元国費留学生は卒業後に各国の駐日大使や、首相になるケースもあり、日本との橋渡し役を果たしている。
【判定結果=ミスリード】
《ミスリード》大学院の博士後期課程の学生を対象にした文部科学省の「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」に選ばれると、生活費に相当する研究奨励費や、研究費などが支給される。3~4年の在学期間の平均支給額は780万円~1040万円。ただし受給者の6割は日本人で、昨年度の中国人留学生の受給者は3割の3151人だった。中国人留学生だけが優遇されているような誤解を招く余地がある。