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女性とのトラブルに関する報道に対して、中居正広さんが1月9日に「お詫(わ)び」として出した文書。「推測での詮索(せんさく)・誹謗(ひぼう)中傷等をすることのないよう、切にお願い申し上げます」と書かれている
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 週刊誌などで女性とのトラブルが報じられた中居正広さんが、芸能界からの引退を発表後、SNS上で関係者への誹謗(ひぼう)中傷が深刻化している。識者は「言葉は凶器になりうる」として、投稿の前に立ち止まって考えるよう警鐘を鳴らす。

「詮索・誹謗中傷しないで」呼びかけ後も

 「女性のプライバシー保護が最優先。誹謗中傷と取られる質問もお控えください」。フジテレビが27日に行った会見では、司会者が冒頭で注意を促した。

 中居さんをめぐっては、週刊文春などが、女性との間で性的なトラブルが起き、女性に解決金を支払うことで合意したなどと報道。フジテレビ幹部社員が関わっていた疑いも報じられた。

 中居さんは9日、自身の個人事務所のホームページで「お詫(わ)び」と題するコメントを発表。その中で、「臆測での詮索(せんさく)・誹謗中傷等をすることのないよう、切にお願い申し上げます」と呼びかけた。だが、23日の引退表明後、中傷が激しくなっている。

 「女性のせいで中居さんが引退に追い込まれた」という趣旨の投稿のほか、週刊誌などで報道されたことを女性の「売名行為」と決めつけて非難したり、「示談して解決金を受け取ったはずだ」と批判したりするものが多い。相手の女性が誰かを決めつけ、中傷する投稿も目立つ。

「非常に危険な状況」と危惧

 セクシュアルハラスメントや性被害などの事案を担当してきた三輪記子(ふさこ)弁護士は「非常に危険な状況」と危惧する。

 何があったのか、多くの人が様々な思いを抱いているとしながらも、「示談の内容も含め、何も公表されていない中で、安易に過剰な言葉で論評することには慎重であるべきだ。自分の心の中で思っていることと、SNSなどに書き込む行為は全く違う。ネットに放たれた言葉は凶器になりうることを、社会全体が冷静に理解し、認識しなければならない」と話す。

 解決金をめぐる批判についても、「示談は当事者間の解決であり、いま問われているのは中居さんとフジテレビの社会的な責任だ。女性が失ったものは、お金では取り戻せない。女性に攻撃の矛先を向けることは許されない」と強調。当事者への中傷で、様々な事案で声を上げようとしている人たちが抑圧されかねないと懸念する。

 SNS上では他の女性に対しても、根拠なく、被害にあったのではないかなどと詮索(せんさく)するような投稿が広がる。フジテレビは公式サイトで、「一部アナウンサーに対する臆測に基づいた事実でない誹謗中傷や侮辱が拡散されている」とし、法的措置を含め、厳正に対処する方針を示している。

 三輪弁護士は「影響力のある中居さんやフジテレビが、『誹謗中傷はあってはならない』とのメッセージを出し続けることも重要だ」とする。

声を上げた人への中傷、ジャニーズ問題でも

 こうした事態は、旧ジャニーズ事務所(SMILE―UP.(スマイルアップ))の創業者、故ジャニー喜多川氏による性加害問題でも繰り返されてきた。同問題では、被害を告発後に中傷を受けた男性が2023年に亡くなった。告発者らへの中傷をめぐっては、複数人が脅迫や侮辱容疑で書類送検された。

 元ジャニーズJr.の中村一也さん(37)は、23年に被害を告発した直後から、SNSに「金目当て」「うそをついて楽しいのか」などと書き込まれた。「顔も名前もわからない匿名の相手から好き勝手に中傷されるのは、あまりにアンフェア。言葉による攻撃は心に刺さり、『心の殺人』だと感じた」という。

 今回の状況については「中傷の波に乗じて書き込みが広がる構図は、ジャニーズ問題と同じ。当事者の気持ちは想像を絶する」とおもんぱかった。

「投稿する前に立ち止まって」

 ネット上の誹謗中傷は、フジテレビの恋愛リアリティー番組「テラスハウス」の出演者が20年、中傷を受けて亡くなったことで、大きな社会問題となった。投稿者2人が侮辱容疑で書類送検されたが、いずれも科料9千円の略式命令だった。

 これを受け、22年に侮辱罪が厳罰化されたほか、問題のある発信者をより早く特定できるようになった。24年には、プラットフォーム事業者に誹謗中傷への迅速な対応などを義務づける法律も成立した。だが、状況は改善していない。

 国際大学の研究所・GLOCOMの山口真一准教授(社会情報学)は「法改正には一定の評価ができるが、激化する誹謗中傷対策としてはまだ十分でない」と指摘する。

 「投稿者の多くは『正当な主張』だと考え、自分が誹謗中傷をしているという自覚に欠けているが、ネットの書き込みは人の命を奪うこともあり、立件される事例も増えている。誰もが大きな発信力を持っているという認識を持ち、自分や家族が書かれたらどう感じるか、投稿する前に立ち止まって考えて欲しい」と語る。

 朝日新聞は、女性を含む関係者への中傷が広がる現状について、中居さんの代理人弁護士に受け止めや呼びかけはないか質問したが、「お答えすることはございません」としている。

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