楳図かずおさんのお別れの会で、会場に設けられた祭壇。花で紅白のボーダー模様に彩られた=2025年5月28日午後0時36分、東京都武蔵野市の吉祥寺エクセルホテル東急、照井琢見撮影

 「楳図先生の描いてくださった漫画は、漫画というのを超越したもので、怖いだけではなくて美しい。本当に宇宙の中でも特異点だったなということを感じています」

 タレントの中川翔子さんは、昨年10月に88歳で亡くなった恐怖漫画の第一人者・楳図かずおさんについて、こう振り返った。

 楳図さんのお別れの会が28日、東京都武蔵野市内のホテルであり、漫画家ら関係者約200人が参列。中川さんも弔辞を述べた。

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 会に先立ち、報道陣の取材に応じた中川さん。

 「私も『漂流教室』の翔ちゃん(主人公の高松翔)から『翔子』という名前を勝手にいただいたり、そしてお会いできたときには、あの怖いタッチからは想像できないくらい、いつも笑顔の印象で。先生からいただいた、『またね』の言葉をいつも胸に生きてきました」

 配信番組で、楳図さんとの「デート」企画に臨んだこともあったという。

 「お昼のお弁当を食べた後に、楳図先生が『翔子ちゃん、グワシ投げしようよ』とおっしゃって」

中川翔子さんは弔辞で「グワシ」のハンドサイン=小学館提供

 グワシ投げは、代表作の一つ「まことちゃん」に出てくる指サイン「グワシ」を描いたボードを投げ合う、謎の遊び。

 「どっちが勝ったのかは分からなかったのですが、先生の遊び心というか、ハートがすごくピュアで……」と振り返った。「子どものように純粋なイメージがありました」

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 最後に会ったのは、2022年に楳図さんが101枚の連作絵画「ZOKU-SHINGO」を発表した展覧会のことだった。印象に残った言葉があったという。

 「一生懸命描いているんだけど、なかなか褒められることが少ないから疲れてしまった。だけどフランスの賞(2018年のアングレーム国際漫画フェスティバルの遺産部門)をもらってほめてくれたから、また描こうと思ったんだよね」

 楳図さんがそう話す顔が、中川さんには「ちょっと寂しそうにも見えた」という。

楳図かずおさんとの思い出を振り返る中川翔子さん=2025年5月28日午後1時25分、東京都武蔵野市の吉祥寺エクセルホテル東急、照井琢見撮影

 目を潤ませながら「先生がいかに素晴らしい偉業を成し遂げたかということを、もっともっと声に出して伝え続けなければいけない。これから先生の作品に出会う新しい世代の人たちとも、先生への気持ちを空に届くようにいっぱい話していきたいと思いました」と語った。

 お別れの会では、漫画家の里中満智子さん、伊藤潤二さん、高橋のぼるさんも弔辞を述べた。

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 里中さんは、歌手活動にも臨んでいた楳図さんのこんな一面を語った。

 「マイケル・ジャクソンの『スリラー』を歌って踊られる楳図先生を見たとき、これは本家ものけぞるほどの、ものすごい出来。楳図先生が踊るために『スリラー』はあるんじゃないかと思えるぐらいの素晴らしいものでした」

楳図かずおさんのお別れの会で、弔辞を述べる里中満智子さん=小学館提供

 「体でも表現なさる姿を見て、この人は『漫画家』と呼んじゃいけない。アーティストっていうのも、ちょっと違うかもしれない。とにかく表現したい人なんだ。方法は何であっても、自分の感じたものを人に伝えるために、全身全霊を使って表現するんだと思って、その表現の意欲に感動いたしました」

 里中さんが選考委員を務める「手塚治虫文化賞」は、2023年に楳図さんへ特別賞を贈った。その授賞式が最後の会話になったそうだ。

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 「最後のアドバイスになったのが『里中さん、あなたもっと派手な色を着なきゃダメ!』。今度からそうしますと言って、今日も赤白の服で来ようと思いましたが、気の弱い人間でこんなありきたりの服で、先生に怒られそうです」

楳図かずおさんのトレードマークでもあった赤と白のボーダー模様の衣服=2025年5月28日午後0時45分、東京都武蔵野市の吉祥寺エクセルホテル東急、照井琢見撮影

 里中さんをはじめ参列者は黒い服が中心。ただ、会場に設けられた祭壇は、楳図さんのトレードマークでもあった赤と白のボーダー模様で彩られた。

 献花の際には「まことちゃん」のイメージソングが流れるなど、楳図さんの人柄を映し出すような、遊び心あふれる式典となった。

お別れの会の会場には展示スペースがあり、楳図かずおさんの仕事机も並んだ=2025年5月28日午後0時44分、東京都武蔵野市の吉祥寺エクセルホテル東急、照井琢見撮影

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