2023年7月9日、午後11時半。気象予報士で、気象キャスターの吉竹顕彰(あきら)(67)は福岡市内の自宅から電話をかけた。相手はNHK福岡放送局のニュース副部長。
「危ない雨雲が発達し始めている。局に行って待機します」と短く告げた。
九州北部地方では8日昼過ぎから断続的に非常に激しい雨が降ったが、市内では9日夕方には晴れ間も見え、「長雨もようやく終わったか」と安堵(あんど)感もあった。午前中に出た土砂災害や洪水の警報も、午後3時前には注意報に変わっていた。
スポーツ中継を中断、始めた緊急放送
だが、吉竹は危険の気配を見逃さなかった。タクシーで放送局に着いて30分後、懸念は確信へと変わった。午前0時を回った頃から雨量が急増。NHKは午前2時50分にスポーツ放送を中断し、大雨の緊急放送を始めた。
吉竹は「線状降水帯発生の可能性を秘めた危険な雨雲」との強い表現で解説を展開した。ニュース副部長は「吉竹さんが強い危機感を示してくれたから、迷うことなく放送した」と振り返る。
気象庁が線状降水帯の発生を発表したのは、10日午前3時過ぎだった。午前7時前には「大雨特別警報」が発表され、各地で土石流が起き、複数の犠牲者が出た。
なぜ見抜けたのか。吉竹は「気象実況をしっかり見ることに尽きる」と、当時の衛星画像を示して振り返る。9日夜、九州の西海上に小さな積乱雲の固まりが生まれた。「このあたりに出ると危ない」と感じ、積乱雲が30分後にみるみる発達するのを見定め、夜の電話につながった。
九州大学理学部物理学科を卒業後、日本気象協会九州支社に入り、1990年からNHK福岡の気象キャスターを務めてきた。「自然へ敬意を持ち、謙虚な姿勢を忘れず、おごらない放送をしていく」。気象予報士としての信念だ。(伊藤隆太郎)
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