マウンド上で笑顔を見せる大阪桐蔭の中野大虎

夏に咲く⑦大阪桐蔭 中野大虎投手

 「出会って1日で、この子はキャプテンになると思いました」

 監督として甲子園で最多70勝を挙げる大阪桐蔭の西谷浩一監督は言う。昨夏の全国高校野球選手権大会1回戦で、興南(沖縄)を相手に完封勝利を飾った中野大虎(だいと)(3年)のことだ。

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 その甲子園が終わり、部員から満票の指名を受けて主将となった右腕は、今春の府大会でフル回転した。

 準決勝に続き、履正社との決勝もマウンドを託されて9回2失点。打っては終盤の適時打で試合の行方を決定づけ、昨秋決勝の雪辱を果たした。

 同学年には、ともに下級生のころからベンチ入りする森陽樹(はるき)がいる。150キロ超の速球を持つ森と支え合いながら競い、今春は背番号1をつけた。

 それでも、エースとしての評価とは受け取らなかった。「キャプテンでもあるので1番をもらったと思う」「(背番号1より)キャプテンの方が重いかな……」

 U―18(18歳以下)日本代表候補に選ばれるほどの力を持ち、それ以上に光るのは、状況に応じた振る舞いができる視野の広さだ。

 主将になってからは野手の練習にもなるべく参加し、ベンチから仲間の様子を見たこともあった。メンバー入りのことばかりを考え、チームワークをおろそかにする部員がいると感じれば、個別に話しかけた。

 府大会決勝のウィニングボールは、今春初めてベンチ入りした左腕、佐井川湧牙(ゆうが)(3年)に渡した。

 もちろん、自身の投手としてのレベルアップもおこたらない。最速150キロ超の森との違いを考え、「真っすぐだけではないところを見せたい」。

 ピンチでも、笑顔と声かけを忘れない。140キロ台後半の直球と多彩な変化球で打ち気をそらす。相手を見て、間合いやギアの入れどころを考える。西谷監督が背番号1を渡したのは、そんな「総合力」を持ち味にして安定した投球を続けていたからだった。

 府大会を制した後、中野はふと涙を見せた。それほど春にかけていた。「夏も、春も、負けたら終わりなのは同じ」。変わらない緊張感を持って戦ったのは、それだけ夏の甲子園に戻りたいからだ。

 練習中から「大阪で1番は大阪桐蔭だ」と口にしてきた。言葉通りの夏にしてみせる。

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