初夏には色とりどりのバラが咲き誇る、さいたま市のJR与野本町駅。10分ほど歩くと、沖縄料理店「カフェギャラリー南風(みなかぜ)」がある。
定休日の日曜日。月に1度、この店は「みな風地域食堂」になる。
地域の大人や中高生がボランティアでつくるカレーや豚汁をほおばりながら、親子や若者が思い思いにくつろぐ。石垣島出身で、店主の山田ちづ子さん(75)が2020年に始めた。
きっかけは、14年に埼玉県川口市で起きたある事件だった。
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母親の命令で祖父母殺害、懲役15年
当時17歳の元少年が、母親に命じられ、祖父母を殺害。現金などを奪った。朝日新聞の当時の報道などによると、元少年は、母親や継父から壮絶な精神的、身体的、性的な虐待を受けて育ち、小学校も途中から通えなかった。行政も居場所がわからない時期が続き、保護にも至らなかった。
小学4年生のとき、両親が離婚。母親は1カ月帰宅しないこともあった。強盗殺人などの罪に問われたさいたま地裁の裁判で、元少年は「捨てられたかと思った」と振り返った。
5年生になると、母親と継父と3人で静岡県へ移動。埼玉県内外の移動を繰り返し、ラブホテルや公園を転々として暮らした。継父の稼ぎで暮らしたが、母親がパチンコなどで浪費した。
中学校にも通えなかった。13歳年下の妹が生まれ、世話をしたのも元少年だった。母親は元少年に親戚に金を借りてくるよう命令。数百万円におよぶ借金を重ねた。
継父が失踪し、16歳だった元少年は母親と妹を養うために住み込みの会社で働いた。母親のため給与の前借りを続け、事件当日の14年3月26日、母親からは(祖父母を)「殺してでも金を持ってこい」などと言われたという。
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裁判のなかで、元少年は起訴…