天井からの柔らかな光が降り注ぐ教会に、千人以上がひしめき合っていた。聞こえてくるベトナム語の賛美歌は、力強く、明るい。

カトリック麴町聖イグナチオ教会で行われたベトナム語による礼拝=2025年3月23日、東京都千代田区麴町6丁目、平山亜理撮影

 日曜日午後3時、東京のJR四ツ谷駅に近い「カトリック麴町聖イグナチオ教会」。毎週末開かれるベトナム語のミサは、走り回る幼い子どもたちもいてにぎやかだ。

 「チャー」(父)と慕われるグエン・タン・ニャー神父(42)は、2009年に神学生として来日。イエズス会神学院(東京都)に所属しながら、日本語を学び、上智大学の神学部などで学んだ後、2017年に司祭になった。8年前からミサを執り行う。

ベトナム語で挙式

 教会では、英語やスペイン語、インドネシア語など六つの外国語でミサが開かれている。元々は欧米の信者が多かったが、1980年代以降、東南アジアや南米の人たちが増えた。

 12年に約5万人だった日本在住のベトナム人の数は、昨年60万人を超えた。教会を訪れる人も増え、月1回だったベトナム語のミサは、去年から週2回になった。

 電車で2時間かけてくる人も。「ベトナム語なので、心の奥に届くのだと思います」とニャー神父。

 ミサは、170人ほどいる「青年会」が手伝う。聖歌隊やライブ配信の担当のほか、困っている人をケアするチームもある。

 聖歌隊のメンバー、グエン・フォン・ゴックさん(25)は、表参道のホテルで働く。「仕事はつらいけど、1週間経ったらみんなで歌ったりご飯を食べたりできて、めっちゃ楽しみ」と話す。

カトリック麴町聖イグナチオ教会で、ベトナム語で賛美歌を歌う聖歌隊のメンバーたちは、朝から練習し、おしゃべりも楽しんでいた=2025年3月23日、東京都千代田区麴町6丁目、平山亜理撮影

 活動の縁で結婚する人も多い。カトリックでの挙式に必要な、結婚のための「講座」もオンラインで出来るとあって、ここ数年は、年100組ほどがベトナム語で式を挙げにくる。祖国に帰れないカップルが日本で式を挙げ、後で母国で家族に祝ってもらう形が定着しつつある。挙式をライブ配信するのも、青年会だ。恋愛を禁止されている技能実習生が、内緒で挙げることもあるという。

カトリック麴町聖イグナチオ教会で行われたベトナム語による礼拝には多くの子どもたちも参列した=2025年3月23日、東京都千代田区麴町6丁目、平山亜理撮影

「借金返せない」逃げ出した先で

 教会には、行き場がない人向けのシェルターもある。

 半年間暮らしたグエン・ヴァン・アインさん(32)は、ベトナム中部の極貧家庭で育った。家はなく、ボートで暮らしていたという。両親は亡くなり、ほかに6人いるきょうだいは読み書きができない。妻子もいる。

 110万円借金し、22年に…

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