天井からの柔らかな光が降り注ぐ教会に、千人以上がひしめき合っていた。聞こえてくるベトナム語の賛美歌は、力強く、明るい。
日曜日午後3時、東京のJR四ツ谷駅に近い「カトリック麴町聖イグナチオ教会」。毎週末開かれるベトナム語のミサは、走り回る幼い子どもたちもいてにぎやかだ。
「チャー」(父)と慕われるグエン・タン・ニャー神父(42)は、2009年に神学生として来日。イエズス会神学院(東京都)に所属しながら、日本語を学び、上智大学の神学部などで学んだ後、2017年に司祭になった。8年前からミサを執り行う。
ベトナム語で挙式
教会では、英語やスペイン語、インドネシア語など六つの外国語でミサが開かれている。元々は欧米の信者が多かったが、1980年代以降、東南アジアや南米の人たちが増えた。
12年に約5万人だった日本在住のベトナム人の数は、昨年60万人を超えた。教会を訪れる人も増え、月1回だったベトナム語のミサは、去年から週2回になった。
電車で2時間かけてくる人も。「ベトナム語なので、心の奥に届くのだと思います」とニャー神父。
ミサは、170人ほどいる「青年会」が手伝う。聖歌隊やライブ配信の担当のほか、困っている人をケアするチームもある。
聖歌隊のメンバー、グエン・フォン・ゴックさん(25)は、表参道のホテルで働く。「仕事はつらいけど、1週間経ったらみんなで歌ったりご飯を食べたりできて、めっちゃ楽しみ」と話す。
活動の縁で結婚する人も多い。カトリックでの挙式に必要な、結婚のための「講座」もオンラインで出来るとあって、ここ数年は、年100組ほどがベトナム語で式を挙げにくる。祖国に帰れないカップルが日本で式を挙げ、後で母国で家族に祝ってもらう形が定着しつつある。挙式をライブ配信するのも、青年会だ。恋愛を禁止されている技能実習生が、内緒で挙げることもあるという。
「借金返せない」逃げ出した先で
教会には、行き場がない人向けのシェルターもある。
半年間暮らしたグエン・ヴァン・アインさん(32)は、ベトナム中部の極貧家庭で育った。家はなく、ボートで暮らしていたという。両親は亡くなり、ほかに6人いるきょうだいは読み書きができない。妻子もいる。
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