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今年3月。2人がかりで熱く指導する井上道義さん(中央)と佐治薫子さん(右)=千葉県少年少女オーケストラ提供
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【連載】音を翼に~佐治薫子とジュニアオーケストラ(4)

 今年で創立28年を迎えた千葉県少年少女オーケストラは、井上道義さんをはじめ、宮川泰さん、宮川彬良さん、佐渡裕さん、冨田勲さん、クリスティアン・アルミンクさん、角田鋼亮さんといった多彩な個性を持つ指揮者たちに鍛えられてきた。その背景には、音楽監督を務める佐治薫子さん(88)の思いがあった。

 1996年に県の主導で創設された千葉県少年少女オーケストラは現在、10歳から20歳までの160人で構成されている。佐治さんは、創設当初からの音楽監督だ。

 「これまでは学校が現場だったけれど、これから育てるのは地域のオーケストラ。私は指導者であって、指揮者じゃない。自分だけの美しい音を見つける、という教育者としての指導まではできるけれど、そこから先は、一流の音楽家たちに導いてもらうしかない」

 約40年、県内の公立小中学校で音楽を教えた。60歳を迎え、定年後の暮らしをのんびり思い描いていた時、千葉県の沼田武知事(当時)から連絡が来た。

 「佐治さんが音楽監督を引き受けてくれるなら、県で子供のオーケストラをつくりたいと思っているんだ。どうかな」

 佐治さんが県内の公立小中学校の合奏レベルを格段に底上げしていくさまを、沼田知事はたびたびコンクールに足を運び、見守ってきた。クラシックの難曲を驚くべきレベルで子供たちに奏でさせる音楽教諭が千葉にいるということで、全国からも注目を浴びていた。作曲家・指揮者の芥川也寸志さんや山本直純さんたちも、千葉県の子供たちをテレビで紹介してくれた。

 このまま去らせるのはもったいない――。知事の熱量に、佐治さんも折れた。

 教え子で、現在は第一線で活躍する現田茂夫さん(65)に協力をあおぎつつ、「一流」を探しに指揮者コンクールに足を運んだ。子供たちを託すのだから、自分の責任で探さなければいけない。

 ある時、「本物」を見つけた。この人だ。きっと優勝するに違いない。いや、優勝しなくてもしなくてもどっちでもいい。うちに振りに来てもらおう。

 佐治さんの見立て通りに優勝を果たしたのが、現在NHK交響楽団の正指揮者を務める下野竜也さん(54)だった。あいさつをしに行ったら、「僕、佐治先生のこと知ってますよ」。鹿児島のジュニアオーケストラで、自身もトランペットを吹いていたという。下野さんは計5回、千葉県少年少女オーケストラの演奏会を実に熱心に率いてくれた。

 指揮者たちの口コミもあり、佐治さんの人脈もどんどん広がっていった。

  • 山田和樹が衝撃を受けたジュニアオケ 指導者が話した音へのこだわり
  • 全国トップレベルのジュニアオケ 指導者の哲学は「1音を大切に」
  • 88歳のジュニアオーケストラ指導者は考える「音楽教育は人間教育」

佐治薫子さん(88)が音楽監督を務める千葉県少年少女オーケストラには、世界的に活躍する指揮者や演奏者が多く関わってきました。なかでも、とりわけオーケストラとの関係が深いといえるのが、指揮者の井上道義さんです。井上さんがこのオーケストラに魅了されたのは、なぜでしょうか。

 指揮者のみならず、ピアニス…

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