フォーラムに先立って授業が一般公開された=2024年11月9日、広島市東区の広島朝鮮初中高級学校

 人はなぜ差別をするのか――? 朝鮮学校を取り巻く現状を題材に、差別の構造について考えるフォーラムが11月、広島市東区の広島朝鮮初中高級学校で開かれた。

 朝鮮学校は在日コリアンの生徒が通う民族学校。学校教育法上は、日本語学校などの多くと同じ「各種学校」だ。広島朝鮮初中高級学校によると、教育内容は日本の学校教育に準じるが、日本語の授業以外は朝鮮語で授業が行われ、朝鮮の歴史や地理なども教える。

 フォーラムは「朝鮮学校を支援する全国弁護士フォーラム2024IN広島」。政府が高校の授業料無償化から朝鮮学校を外していることが違憲だとして、学校側が起こした訴訟を担当した弁護士らが主催した。東京、愛知に続いて3回目だ。

運動部の試合中に飛んだ差別的発言

 登壇した広島朝鮮の金令姫(キンリョンヒ)教務部長は、実際の体験を語った。運動部の試合で、生徒が対戦校の日本の学校の生徒とぶつかると、差別的な言葉を投げかけられることがあった。北朝鮮がミサイルを発射する度、学校に「なぜ飛ばすんだ」という電話もかかってくるという。

 自身の娘が同校の生徒だった十数年前には、公園で小学生の男子から「おまえ朝鮮人やろ」とからかわれた。小学生は、かつての金さんの教え子だった在日コリアンの女性の息子だと後にわかった。金さんによると、親になった在日コリアンが自分の子が差別を受けないようにと考え、ルーツを告げなかったり、隠すようにさせたりすることは少なくないという。

 一方で、同校は毎年2回程度、授業を一般公開し、文化祭などで地域住民との交流を続ける。大阪、神戸の朝鮮学校や、広島県内外の高校約10校のサッカー部を招く「ピョンファ(平和)杯」を毎年開き、来春で30回目という。「うちの学校が公式戦に出られなかった時代に日本の先生たちの協力で始まった、すばらしい取り組みなんです」

 フォーラムの冒頭では、広島朝鮮の生徒が無償化裁判への支援を求めてビラ配りをした際、見知らぬ女性から「寒いけど頑張ってね」と励まされたことへの感謝を語った。

 これについて、登壇者で「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の田中美穂さんは「頑張ってね、じゃなくて、私たちこそが差別をなくすために頑張る側なのに、とすごく感じました」と話した。

  • 在日3.5世、優しい自分でありたい 少数派だからこそ

 朝鮮学校は、北朝鮮を支持する在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)と関わりが深いため、北朝鮮の政治と結びつけて見られるといい、金さんによると、1990年代に拉致問題が広く報道されてから露骨な差別が増えたという。広島朝鮮の生徒は幼稚部も含めて78人で、約7割が韓国籍。金さんは「生徒は自分たちの歴史や文化、言語を学びに通っている。拉致はあってはならないことで心を痛めているが、生徒や学校と政治問題を結びつけないでほしい」と訴える。

森達也さん「不安募ると人は集団化」

 鳥取大の呉永鎬(オヨンホ)准教授(教育社会学)は講演で、在日差別の根底には「あなたと私の命は同じように大切」という人権感覚を否定する考え方がある、と指摘した。

 呉准教授は、視覚障害のある障害学研究者、倉本智明さんの「私がごはんを食べるとき、箸がうまく使えず緊張しているということをあなたは知らない」という言葉を紹介。健常者が障害について語る際、「知らない」という自らの立場を認識することが重要で、その視点を欠くと差別の加害者になりうると語った。

 オウム真理教信者の日常を映したドキュメンタリー映画「A」や関東大震災後の朝鮮人虐殺を描く劇映画「福田村事件」などを撮影した映画監督・作家の森達也さんも講演した。

 森さんは、1995年の地下鉄サリン事件以降、メディアが信者らを「理性や感情を失った危険で不気味な集団」などと繰り返し報じ、人々の不安と恐怖をあおったと振り返った。

 不安が募ると、人は集団化して強い政治リーダーを求め、同調圧力に従わない者を排除したくなると指摘。「僕は人類の戦争や虐殺はこうして起きると思っています」。少数派を見つけて攻撃し、自分は多数派にいるのだと安心する構造は、学校でのいじめと同じだとも語った。

朝鮮学校、高校授業料無償化の対象外

 朝鮮半島出身者が戦後、民族の言葉を学ぶ場として建てた国語講習所が前身。2023年は28都道府県の57校に幼稚部、初・中・高級部の4019人が在籍した。広島朝鮮は1996年に初・中・高級部で449人いたが、現在は74人。

 日本政府は、授業に北朝鮮を支持する内容があるなどとして高校授業料無償化の対象から除外。東京、大阪、愛知、広島、福岡の朝鮮学校側がこれを違憲・違法として各地裁に提訴した。

 大阪地裁判決は「教育の自主性までは失っていない」と判断し、学校側の主張を認めた。しかし、大阪高裁は朝鮮総連との人事交流などを理由に、教育基本法が禁じる「不当な支配」の疑いが残るとして地裁判決を取り消した。19~21年、すべての訴訟で学校側の敗訴が確定した。

 国連の人種差別撤廃委員会は「子どもたちの教育に差別的な影響を及ぼす」として、日本政府に朝鮮学校生を差別しないよう求めている。

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