「ちょうさ」と呼ばれる太鼓台を担ぐ香川県琴平町榎井地区の秋祭り。市町の境を越えて担い手を出し合っていた=2024年10月2日午後7時15分、香川県琴平町榎井、木野村隆宏撮影

 日本や世界の各地に住む人々から話を聞いて、それぞれの土地の暮らしを学びたい――。

 新聞記者になったのは、自分の「知りたい」をかなえてくれる職業だったからだ。

 入社して1年と少し。赴任先の香川県で警察や司法などを担当しつつ、四国の各地にも足を延ばしてきた。

 心に残っている取材がある。昨年10月の衆院選を前に、地方の現場からこの国の課題を考えるため、高知県日高村を訪ねた。村唯一のスーパーが1カ月ほど前に閉店してしまった地域だ。

 村で出会った女性(85)のもとへ3日間通って話を聞いた。スーパーがなくなり困ってはいたが、生協の宅配を利用するなどして、生活はやりくりできている印象もあった。

 ただ、女性は健康のために無添加食材にこだわっており、「(スーパーでは)商品を直接見て選べるのがよかったのよ」とこぼした。はっとした。

 身近な店が消えることは、買い物の便利さだけの問題ではない。女性にとっては、ささやかな暮らしの楽しみを持つことが難しくなっていたのだ。

 その地域に暮らす人に聞くことでしかわからない視点に気づかされた。

 私は学生時代、研究のために岩手県に通い、村の夏祭りでひく山車づくりを手伝っていた。元々の人口減少に東日本大震災が追い打ちをかけ、祭りの担い手不足は深刻だった。一方で、毎年のように関わるようになった学生ボランティアの来訪を村の人たちは楽しみに待っていた。この祭りの変化は、震災後の新たなつながりを象徴しているように感じられた。

 今も祭りを追っている。香川県琴平町では、市町を越えて担い手を出しあい、秋祭りを続ける姿を取材した。同県坂出市では、県の無形民俗文化財「北条念仏踊」を約30年ぶりに復活させた若い世代に密着した。

  • 人口減に悩む地域の祭り 「ちょうさ」続けるため、市町を超えた互助

 人口減少が深刻な地方で、モノやサービス、伝統文化の維持が困難になっている。それらには、外から目に見える以上に、暮らす人にとって重要な意味がある。すべてを残すことはできないかもしれないが、当事者にとっての価値を伝えることで、「本当に大事なものはなにか」を議論できるきっかけになれば、と思っている。

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