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 波が打ち寄せる岩にぺったりくっつく平たい貝「ヒザラガイ」。実は、その鋭い歯は酸化鉄の一種、磁鉄鉱でできている。岡山大などのチームが、この歯の作られ方を明らかにした。環境への悪影響が少ない磁鉄鉱の合成や、鉄が関係する病気の研究などへの応用も期待される。

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瀬戸内海のヒザラガイ=岡山大学の根本理子准教授提供

 ヒザラガイの仲間は、日本をはじめ世界中の海岸で見られる。磁鉄鉱でできた歯は硬く、人工ダイヤとも言われるジルコニアを超える耐摩耗性を示すという。ヒザラガイはこの鋭い歯を使って、岩についた藻をガリガリと削り取って食べている。

 チームは、瀬戸内海で採ったヒザラガイの仲間3種の遺伝子を調べ、共通して歯で働くたんぱく質「RTMP1」を見つけた。このたんぱく質があるところに色をつける技術を使って詳しく調べてみると、まだ鉄が入る前の「できかけの歯」にもよく見られることがわかった。

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ヒザラガイの歯=岡山大学の根本理子准教授提供

 歯の骨格になる線維質にこのたんぱく質がコーティングされ、そこを足場のようにして鉄がくっつくらしい。人工的に、このたんぱく質を繊維に結合させたものを鉄が含まれる溶液に浸しても、繊維の上に酸化鉄ができた。

医療への応用可能性も

 岡山大の根本理子准教授(遺伝子工学)は、「磁鉄鉱は工業的には高温や有害物質を使って合成されており、生物の体内での形成は驚きだ」と話す。磁鉄鉱はハードディスクなどくらしの様々な場面で使われており、安全な製品作りに応用できるかもしれないという。

 また、ヒザラガイは鉄を体内で安全に運ぶしくみを備えており、数日間で、歯の組織の重さの10%にもあたる鉄を濃縮・沈着することができるという。ほかの生きものでは体内に過剰な鉄があることによる病気もあり、「さらに詳しく研究が進めば、不要な鉄を除去するような応用ができるかもしれない」と話した。

 論文は米科学誌サイエンスに掲載された(https://doi.org/10.1126/science.adu0043)。

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潮が引いて現れる潮だまり=和歌山県田辺市、杉浦奈実撮影

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