新作長唄「儚小町」を作詞した松本隆(右)、作曲した藤舎貴生(左)、振り付けて新作舞踊を舞う若柳佑輝子

 長い時間をかけて育まれた伝統芸能が、存亡の危機に直面している……とよく言われるが、京都の伝承者たちはいま、作品づくりや情報発信で従来にない取り組みをしている。偶然ではない。将来への不安がはっきり見えているからだ。

 「舞踊家をめざす人が減っています」

 日本舞踊若柳流の若柳佑輝子は今月末、初めて自主公演を開く。取材会で、危機感を隠さず語った。

 公演の目玉は、作詞家の松本隆が詞を書き、佑輝子が振り付ける新作長唄「儚小町(はかなこまち)」。平安時代の歌人、小野小町が題材だ。

 松本は、太田裕美や近藤真彦ら1970~80年代のヒット歌謡曲を手がけ、近年は伝統的な日本の音楽にも幅を広げる大御所。今回、松田聖子の「風立ちぬ」をイメージして詞を書いた。

 佑輝子によると、詞は口語体でわかりやすい。舞踊家はきれいに踊ろうとしがちだが、曲には物語があり、何を表現しているかを伝えたい。「振り付けがどういう意味か、歌を聞きながら楽しんでいただけたら」

 日本舞踊を習う人は、舞台の仕事の少なさや結婚、出産を理由に、業界から離れていくことが多い。関西の舞踊家では、33歳の佑輝子は最年少クラスだ。「誰かが仕事を作ってくれるという意識を終わらせたい」と腹をくくる。

 能楽の世界でも新しい試みがある。京都観世会は8月例会で、観客が撮影できる時間を設けた。

伝統芸能の世界で、新しい試みが次々に出てきています。背景にあるのは、このままでは存亡の危機を迎えるという危機感です。記事後半では、能楽師の片山九郎右衛門さんや、野村萬斎さん、劇作家・演出家のわかぎゑふさんのお話も紹介します。

 終演後に能楽師や囃子方(は…

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