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がん研有明病院乳腺内科部長の高野利実さん=2025年6月25日午後1時53分、東京都江東区、吉備彩日撮影

■シリーズ「進化する薬のいま」

 がんの治療薬は近年、めざましい進化を遂げていると言われています。「10年前ならば受けられなかった治療を、いまの患者さんは受けられている」。がん研有明病院(東京)の腫瘍(しゅよう)内科医、高野利実さんはそう話します。がんの薬物療法を専門とする立場から、進化する薬の現在地と今後について、聞きました。

 ――がんの治療薬の進化を、具体的に教えてください。

 2000年代に「分子標的薬」が登場しました。乳がんに対する「ハーセプチン」、慢性骨髄性白血病に対する「グリベック」、肺がんに対する「イレッサ」……。それまでの薬と異なり、がん細胞を「狙い撃ち」する薬です。

 14年には、免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボが登場しました。最近は、抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる薬が次々に登場しています。がん細胞の表面にある目印に特異的にくっつく抗体に、がん細胞を倒す薬を結合させたものです。「エンハーツ」はこのタイプの薬で、日本で開発されました。20年に承認され、乳がんなどを中心に世界中で使われています。

 ――治療におけるインパクトは?

 がんの増殖にかかわるたんぱく質「HER2」を多く持つ乳がんの患者さんは、かつては予後が悪いと言われていました。それが、ハーセプチンやエンハーツの登場で、いまでは乳がんのなかで最も長生きできるタイプのがんになっています。

 免疫チェックポイント阻害剤は、メラノーマ(皮膚がんの一種)や肺がんなど多くの種類のがんで、寿命を延ばす効果が確認されています。

 ――薬の選択肢が増えているんですね。一方で、高額であるため、医療経済に与えるインパクトの大きさを指摘する声もあります。

 がんの薬の値段は、以前と比べると驚くほど高額になっています。これらの薬の開発には相当な時間と経費がかかっているので、仕方ないところがあります。開発に成功する薬はほんの一部で、その裏には途中で消えていき、世に出なかった多くの「薬候補」の存在があります。開発に成功した薬で、その経費を回収し、さらに次の薬のための研究開発費も生み出さなければいけません。

薬のコスト、医師も患者も「あまり考えなくてよかった」

 ――医療費の自己負担に限度額を設ける「高額療養費」の議論も大きな話題となりました。

 私が診ているがん患者さんの…

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