展覧会「観仏三昧」で展示されている工藤利三郎の写真集「日本精華」。明治40年代からの制作で、高度な印刷技術が用いられた。盗難で行方不明になっている新薬師寺の香薬師如来立像の写真も=2024年7月12日午後2時56分、入江泰吉記念奈良市写真美術館、富岡万葉撮影

 奈良を拠点に仏像を撮った写真家3人の作品を集めた展覧会「観仏三昧(ざんまい)―工藤利三郎・入江泰吉・永野太造―」が、奈良市の入江泰吉記念奈良市写真美術館で開かれている。それぞれが引き出した美を各40点前後の作品から見比べられる。

 工藤(1848~1929)は明治中期から大正にかけての写真師(写真家)で、奈良の古美術写真の草分けとなった一人に数えられる。入江(1905~92)と永野(1922~90)は戦後に活躍し、「奈良大和路仏像ポスター」には一時期、交互に作品が採用された。

 工藤の展示作は同館所蔵のガラス原板(国登録有形文化財)写真が中心。仏像の全身を自然光で写したものが多い。中には、修復前の興福寺阿修羅像の腕が欠けた姿や、焼失した法隆寺金堂壁画6号壁の観音菩薩(ぼさつ)も。「歴史的資料としての価値も高い」と学芸員の説田晃大さんは説明する。

 入江は構図が目を引く。縦写真ばかりでなく横でも撮った。たたずまいの剛柔を捉えた陰影や余白、造形美を際立たせる大胆なトリミングは、細部まで目をこらす姿勢から生まれたという。仏像をメジャーで測る修理風景や、普段は見られない背面も収めた。

 永野の展示作は、帝塚山大(奈良市)に寄贈されたガラス乾板写真の一部。上部から照らした光を行き渡らせ、全体に合わせたピントが鋭さを演出する。写真は独学だったという。「仏師が降り注ぐ日光の下で仏像を彫ったであろう状況を、永野さんは意識したとか。仏像は誰が撮っても同じではないことがわかります」(説田さん)。

 第三者ではなく写真家本人や弟子らがプリントを監修したオリジナルが多く、撮影時に意図された色彩で鑑賞できるのも今展の特徴だ。

 9月1日まで、月曜と8月13日休館(同12日は開館)。一般500円など、毎週土曜日は小中高生無料。第2、4土曜日の午後2時からは学芸員による無料の解説がある。問い合わせは同館(0742・22・9811)へ。(富岡万葉)

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