(24日、第106回全国高校野球選手権埼玉大会準々決勝 花咲徳栄12―9西武台)
花咲徳栄が8点差を追いつかれながら競り勝った。同点の延長十回、石塚の3点適時二塁打などで4点勝ち越し。最後は4番手岡山が締めた。西武台は七回に7点を取り猛追。九回は代打佐藤の適時打で追いつき、その後も無死満塁のサヨナラの好機を作ったが、生かせなかった。
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8点を追う、七回裏。西武台は、2点を返せなければコールド負けが決まる。1点を返し、2死二塁の場面で主将の湊栞太(3年)が代打に送られると、スタンドがこれまでになく沸いた。
応援を目にし、「自分が塁に出れば、波に乗れる。主将として絶対塁に出る」。5球目の低めの球を左翼前にはじいた。失策もからみ、二塁走者の桜井拓海(3年)が一気に生還。湊は「スタンドが打たせてくれました」と振り返る。
主将の一振りで球場の雰囲気が一変し、西武台が一気に勢いづいた。さらに3連打でつなぎ、2点を加点。打席は4番の芦沢瑛太(3年)までつながった。
芦沢が打席に立ったとき、湊は「この試合、いける」と思った。主将が絶対の信頼を寄せる芦沢は、期待に応える走者一掃の適時三塁打。さらに暴投で1点差となり、九回にも1点を加えてサヨナラ直前まで詰め寄った。
湊は、高校入学直後に腰のヘルニアを発症し、4カ月間野球ができなかった。それでも野球への情熱は冷めず、増量やウェートトレーニングを重ねて復帰した。
河野創太監督は、「スタメンには入れられなかったけど、外せない。言葉では難しいけど、これだけ頼もしいキャプテンはいない」と評価する。七回の代打は「一番頑張ってきた湊なら、何かしらをやってくれると思っていた」と話す。
プレーだけでなく、声がけでもチームを鼓舞し続けた。この日は打者が追い込まれたときや、投手がピンチのとき、伝令には湊が走った。
十回、マウンドに上がった桜井が二塁打を打たれた後には、「裏で逆転するからもう何点取られても良い。思い切って投げてこい」と声をかけた。「あの笑顔を見ると安心します。湊と野球を出来て良かった」と桜井は語った。
埼玉大会の最高成績はベスト8。選手たちはベンチで「歴史を変えよう」と鼓舞しあい、その壁に挑んだ。湊は「壁は厚かった。でも、ベストゲームでやり切りました。悔いは無いです」。(宮島昌英)