「東関東の御三家」とも呼ばれ、全日本吹奏楽コンクールに通算23回出場している茨城県の常総学院高校。部活が終わった後の戸締まりは部長・副部長の幹部がおこなうことになっている。
4月17日のことだ。
部長でコントラバス担当の飯竹洸士(こうじ)は同じ3年の副部長のテューバ担当・本多柊子(とうこ)、クラリネット担当の高橋真夕奈(まゆな)とともに音楽準備室で戸締まりをしていた。
洸士がコップを取ろうとして手を伸ばしたとき、左脚に不自然な形で体重がかかってしまった。
「ひざがずれるような感覚がありました。激痛が走り、床にしゃがみ込んだまま立ち上がれなくなった。その後、一時的に動けるようになって家族の車で家に帰ったんですけど、車を降りるときにはもう痛みで歩けなくなっていました」
病院の診断は膝蓋骨(しつがいこつ)骨折だった。
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吹奏楽作家のオザワ部長が各地の吹奏楽部を訪ねます。
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そのけがから約1カ月経つが、洸士はいまもひざの裏側を鉄板で固定した状態になっている。洸士が座った状態で演奏できる管楽器奏者だったらよかったのだが、コントラバスは立ちっぱなしで演奏する楽器。しかも、大きい。
松葉杖がないと立てず、とても演奏はできない。
「ずっと椅子に座ってみんなの練習を見守ったり、パート練習でアドバイスをしたりしている状態です。幹部の仕事の多くは本多や高橋に任せきりですし、ずっと練習ができないことに焦りも感じています」
いわゆる強豪校では、部活を運営していくのは簡単なことではない。演奏技術も意識も高く、自己主張が強く、独自の考え方を持った個性的な部員が少なくないからだ。
洸士たち幹部3人は、それぞれのキャラを生かして役割分担をしながら運営してきた。
「厳しいことは私がはっきり言い、頭脳派の高橋は『それはこうしたらいいんじゃない?』と具体案を出したりアドバイスをしたりする役目。おっとりしている洸士は場を和ませます」。柊子はそう語る。
いちばん難しいのは、3人が所属していないパートでもめ事が起こりそうになったときだ。問題が大きくなる前に察知し、先回りして対処するのも3人の仕事だ。
だが、洸士がけがをしてから3人分の仕事を2人で分担している。かといって、洸士の代わりができるわけではない。
「3人そろってできないのは寂しいですし、洸士がいなくなって、改めてその存在の大きさがわかりました」
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骨折した洸士が焦っているの…