学歴を偽ったと指摘されている静岡県伊東市の田久保真紀市長が、辞職の撤回を表明した記者会見で続投理由として挙げたのが、新図書館建設計画の中止と、伊豆高原でのメガソーラー(大規模太陽光発電事業)計画の白紙撤回への取り組みだった。だが、発言直後から「事実誤認」などと関係者からの批判が相次ぎ、発言の訂正に追い込まれ、続投理由は失われた。

 田久保氏は7月31日の記者会見で、両計画の中止や白紙撤回は「私に与えられた使命で、公約を実現する」と強調した。さらに両計画は「水面下で激しく動いている」「着々と復活の兆しを見せている」などとあおった。

 実際はどうなのか。

 会見の様子をネット中継で見ていた市議会の青木敬博副議長が会見直後、報道陣に応対した。前市長時代の2018年にメガソーラー計画は止まったとし、「(田久保氏が)市議になったのは2年後だ」と指摘。田久保氏の主張に疑問を呈した。実際、太陽光発電所の建設を規制する市の条例が18年に成立している。

 静岡市の難波喬司市長も加わった。5日の定例会見の最後に「事実とは異なる情報が出ているので、事実関係だけはっきりしておきたい」と自ら切り出した。難波氏は副知事時代、メガソーラー計画に県として関わっていたとして、A4判8ページに及ぶ資料を示しながら事業の経緯と現状を説明した。「計画はすでに止まっている。太陽光発電事業を実施できる状態にない」としたうえで、「(田久保氏は)事業がどういう状態かあまり認識されていない」と指摘した。

 これに対し、田久保氏は7日、自身のXに「私が公約に掲げているのはメガソーラー事業の一時停止ではなく完全白紙撤回です」としたうえで、「なぜ、このタイミングで突然、このようなコメントを出す必要があるのか」と投稿した。

 前市長が推進し、いったんは予算計上された新図書館計画についても、市議会は「見直しはやむなし」とみている。市議会の中島弘道議長は6日、「新しい図書館は必要だと思うが、建設構想は白紙から考え直さなければならないと思っている」と話し、田久保氏が挙げた続投理由について首をかしげた。

 8日には、田久保氏と市幹部による政策会議でも疑問の声が上がった。市幹部は「市民に不安や疑念を抱かせる恐れがある」と指摘し、訂正を求めた。これを受け、田久保氏は市のホームページで市民向けのメッセージを掲載し、「『水面下で激しく動いている』という発言を訂正する」と記載した。市も近く、新図書館とメガソーラー計画に関する調査結果や事実関係、事業の進捗についてまとめ、公開する予定という。

 メガソーラー計画と新図書館の建設中止は、田久保氏が市民運動家から市議、市長へと進む原動力となったもの。その2つの事業を続投理由に挙げ、「水面下の激しい動き」という「仮想敵」で難局を乗り切ろうという試みは失敗したといえそうだ。

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