金沢を中心に伝わる加賀獅子は金沢市の無形民俗文化財にもなっていて、多くの人に愛される伝統芸能だ。その大きな特徴の一つは「加賀獅子頭」。ほかの地域より大型で、「八方にらみ」といわれる鋭い眼光などが目を引く。獅子頭をつくる技術は、築地の祭りでも生かされている。その工房を訪ね、400年の伝統を支える職人技を垣間見た。
霊峰・白山の玄関口、石川県白山市の鶴来地区にある知田工房は、獅子頭を彫る県内唯一の専門工房だ。
鮮やかな赤や緑の顔、渋い茶色の顔……。工房内の畳や椅子の上には大小さまざまな獅子頭が置かれていた。漆塗りではなく、鹿皮が張られたものもある。修理や新調(作り直し)のために持ち込まれたもので、さながら「獅子の病院」だ。カゴに入れて積まれているものもあり、今年は30頭余りを手がける見込みだという。
加賀獅子は、天正11(1583)年、加賀藩祖・前田利家が金沢城に入城した際、民衆が獅子舞を演じて祝ったのが由来とされ、代々の藩主が奨励し、盛んになったという。「前田の殿様が伝統文化を大事にしてくれたおかげで、町会単位で豪華な獅子頭が作られてきた」と二代目の知田清雲さん(63)が説明してくれた。かまれると邪気を食べてもらえるといわれ、地域で受け継がれてきた。
獅子頭を直す工程は多岐にわたる。漆塗りや金箔(きんぱく)、真鍮(しんちゅう)、馬やヤクの毛なども使われ、それぞれ専門の職人の手で装飾が施される。そして、軽さが求められるため、大半が桐(きり)製だ。知田工房が修理の際に直接受け持つのはこの木地の部分だ。
穴があいたり、割れたりしたところに木を補い、木ねじを打ち込む。
修理と並行して新調も進めて…