■佐伯啓思の「異論のススメ・スペシャル」
トランプ氏の米大統領就任以来、世界はこの人物に振り回されている。予期はされていたものの、それ以上かもしれない。そのひとつが次々と仕掛ける関税政策である。すると相手国も報復関税をかけ、関税戦争の様相を呈す。二国間の「ディール」(取引)に持ちこむための戦略とはいえ、この粗暴なやり方が混乱を招き、不確実性を著しく高めることは間違いない。
だから、「自由貿易体制を守れ」という声がでてくるのも当然なのだが、どうも迫力に欠ける。そもそもトランプ氏には、「自由貿易体制」など最初から眼中にないのだから、ここで「自由貿易の正義」を持ち出しても効果はなかろう。
トランプ氏にとっては、自由貿易体制は理想でも正義でも何でもない。問題は米国経済の立て直しとその強化だけであり、手段も関税政策だけではない。
USスチールの買収問題への介入もその一例であり、様々な産業政策、米国への外国資本の導入、さらにイーロン・マスク氏による行政効率化、シリコンバレーの投資家や実業家との連携など、すべてMAGA(米国を再び偉大に)へ向けた方策だ。結果をだせばよいのである。
「表看板」にすぎなかった自由貿易
通常、自国経済の強化を目的…