教室で開いたミニマーケットの様子=2025年7月、神奈川県伊勢原市高森2丁目、成瀬中学校提供

 特別支援学級の生徒たちに、自立のための社会参加を体験してもらいたい。そんな思いから神奈川県伊勢原市立成瀬中学校が、会社を模した「すまいる商店」というユニークな取り組みを続けている。めざすのは、人に喜ばれる活動だ。

 「すまいる商店」の「業務」は幅広い。特別支援学級の31人全員が参加し、エコ、手芸、創造の三つの作業グループに分かれて活動している。3年生の10人は、「チーフ」として企画や広報などの役割も務める。

 エコグループは、給食の牛乳パックを再利用し、紙すきをしてフライパンの油を吸うオイルキャッチャーなどに再生する。今は名刺づくりの最中だ。

 手芸グループは、大阪の靴下メーカーからはぎれを譲り受け、編み込んでアクセサリーやバッグなどを作る。創造グループは、回収したペットボトルキャップを細かく刻み、アイロンで熱を加えて板状にして、キーホルダーや傘の目印などを製作する。

 このほか校内の畑「すまいる農園」で野菜も栽培する。

 商店の名の通り、作品や野菜は各学期に1回、教室で開かれるマーケットで販売する。先生が客になり、生徒は接客しながら商品の良さを説明。「2個で10円です」などと売っていく。売り上げは苗や資材の購入、共同募金への寄付などにあてるという。

 きっかけは4年ほど前、「社長」を務める熊田もも子教諭(45)の発案だった。生徒たちが生き生きと活発に前に出ていけるようにしたい。お店なら、何が欲しいか相手の気持ちを考えることもできるのではないか――。

 最初は勝手が分からなかった生徒たちが、「楽しそうに準備するようになってきた」と熊田教諭。時間をかけて一生懸命作ったものが売れた時の達成感などで、「目の色が変わった」という。

 自立活動の時間をベースに週2回、計4時間ほどをあてる。牛乳パックやキャップの回収を通じて、普通学級の生徒との交流も増えた。

 今春着任した桜井綾子校長は、こんな活動があったのかと驚いたという。「(障害の有無に関わらない)インクルーシブ教育のひとつのあり方。地域との交流にもつなげていきたい」と話す。

 手芸グループの3年の後藤成吾さん(14)は、「最初に靴下のはぎれでコースターを作った時は(難しくて)訳が分からなかったけど、今は作るのが楽しい」。創造グループの3年の穂坂恵瑠さん(14)は「友だちとしゃべりながら作業するのが面白い」と笑顔を見せる。

 今年1月、活動を知った厚木市の廃棄物処理会社と初の企業連携も実現。ペットボトルキャップの回収、リサイクルでの協力も始まった。

 「すまいる」は素直に、毎日、一緒に、るんるん気分で、の頭文字を取った。みんなが笑顔になれる、というのがもうひとつの大きな目標だ。

 熊田教諭は「学校の先生全員の協力があったから実現した」と振り返る。そして、「子どもたちの力が、ここまで続けさせてくれた一番の要因。子どもたちに感謝したい」。

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