作家の李恢成さん=1994年撮影

 外国人として初めて芥川賞を受け、「見果てぬ夢」や「地上生活者」などで在日文学を確立した作家の李恢成(り・かいせい、朝鮮語読みはイ・フェソン)さんが5日、誤嚥(ごえん)性肺炎のため死去した。89歳だった。葬儀は家族で行った。喪主は妻許承貴さん。

 1935年、ロシア・サハリン(当時の樺太)生まれ。戦後、札幌市に移住。早稲田大学卒。朝鮮新報記者などを経て、69年に「またふたたびの道」で群像新人文学賞を受け、作家デビューした。72年、少年の母への追憶を描いた「砧(きぬた)をうつ女」で芥川賞。

 在日朝鮮人の一家を通して、南北に分断された祖国への思いを描き続けてきた。代表作「見果てぬ夢」(1977~79年、全6巻)は70年代の韓国を舞台に、祖国統一に揺れ苦闘する人々の群像によって歴史と向き合った。80年代には創作を中断して、民衆劇の公演や、在日文学の文芸誌「民濤」発行に力をそそいだ。

 小説のほか、韓国を代表する詩人・金芝河(キムジハ)の作品集「不帰」を75年に翻訳。83年のルポルタージュ「サハリンへの旅」では土地への愛をつづった。

 94年「百年の旅人たち」で野間文芸賞。2005年から書き続けた「地上生活者」は、自身と重なる主人公の少年時代から小説家になる半生を振り返る大河小説。在日を生きる意味を問うライフワークとなった。

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