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会見で映画への思いを語る倉本聰さん=2024年10月13日午後1時33分、札幌市中央区
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 倉本聰さん(89)が原作・脚本を手がけた新作映画「海の沈黙」が完成し、13日に札幌市中央区のホテルで記者会見が開かれた。構想60年。出発点は「どうにも納得がいかない」という美の価値への思いだ。

 物語は、著名な画家が一枚の絵を「贋作(がんさく)」と訴えたことから始まる。その頃、小樽市では刺青をいれた女性の死体が発見された。二つの事件を結ぶのは、かつて天才画家と呼ばれた男だった。

 「60年前に仕込んだ子どもがやっと生まれてくれた」と倉本さんは語る。鎌倉期の制作とされていた壺(つぼ)が明治生まれの陶芸家の贋作であると判明し、重要文化財指定が取り消された1960年の「永仁の壺事件」がきっかけとなった。

 「時代が違うとわかった途端、作品を認めていた評論家も世間も美の価値を下げる。この風潮に納得がいかなくて、なんとか映画にしたいと思ってきた」という。作品の美に、作者や時代の裏付けが必要なのか。そんな問いかけだ。

 60年の中で、作品作りのポイントになった出来事にも直面してきた。その一つが、倉本さんが天塩町の海岸で見た風景だったという。夕方に何人かの若者が太い木を、何本も運びながら黙々と歩いている姿を見た。「浜辺で何が起きたんだろうと思って聞いてみたら、1人の仲間が海で死んだと」

 その地域では、漁師が海で亡くなると迎え火というものをたくと聞いたという。「ここがあなたの国、あなたの場所だと示す。ここに戻ってこいという意味もある。それが象徴的な意味になって、何日も何日もものすごく大きな火をたく」。映画にも迎え火が登場する。

 会見には、出演者の本木雅弘さんや小泉今日子さん、菅野恵さんが出席。若松節朗監督は「これまでの作風ではないが、倉本イズムである世渡りが下手な人たちの人間像はしっかり描かれている」と話す。11月22日公開。(江戸川夏樹)

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