大切なのは見た目ではなく内面。ましてや、社会を導く政治家なら――というのは建前かもしれない。選挙では候補者のルックスが得票に大きく影響していることを、政治学のデータ分析は示し続けている。有権者が顔を気にしてしまうのは、なぜだろうか。
「顔面偏差値が得票に与える影響は頑健である」「新人(の候補者)においては特に影響が大きい」
横浜市立大の和田淳一郎教授(公共選択)は学術誌「選挙研究」の最新号に発表した論文で、そう断定した。
タイトルは「候補者の顔貌(がんぼう)が得票に与える影響について」。2023年の横浜市議選に立候補した138人の「顔面偏差値」を、人工知能(AI)で算出。得票との関係を調べた。
すると、顔面偏差値が1上がるごとに、得票が少なくとも50票程度増えるとの結果になった。偏差値70の人は50の人より1千票以上も多くの票が得られることになる。
議会での実績がない新人候補だとルックスの「効果」はとくに高く、偏差値が1上がるごとに少なくとも約100票の得票増が期待できるとわかった。このときの横浜市議選では、100票未満の得票差が当落を決した区もあった。顔面偏差値による当落への影響は「全くもって無視できない」と指摘した。
顔面偏差値は、中国のAI開発企業Megvii社の技術「Face++」(https://www.faceplusplus.com/)で計算した。日本のソフト開発会社が提供するウェブサイトを経由すると、誰でも無料で使えるという。検証のため、学生に市議選候補者の顔を5段階で評価してもらうと、AIが出した偏差値とおおむね一致。精度がじゅうぶんに高いと判断できた。
和田さんが期待するのは、同じ手法の研究が広がることだ。顔面偏差値の効果は国政選挙と地方の選挙では異なるし、自治体の規模によっても変わるはず。その違いを知りたいという。「お金をかけずに誰でもできる研究。全国で学生が一斉にワーッとやって、卒論にしてくれればと」
和田さんの研究も、もとは共著者で教え子の花上陽平さん(24)が学部の卒論にしようと始めたものだった。AIを使うアイデアを出したのも花上さんだ。「こんな(誰でも使えるサービスで出した)偏差値が選挙結果と相関しているのに、先生はビックリされていました」と花上さんは言う。
中高生のころに、AIで人の顔を入れかえて遊べるスマートフォンのアプリが流行した。アイデアを思いついたのは、この思い出があったからだという。学術誌に論文が掲載されたことについて、「とてもうれしい。受験から大学生活までを応援してくれていた祖父母に伝えたら、すごく喜んでくれた」と話した。
政治家のルックスと得票の関係を調べたのは、和田さんと花上さんが初めてではない。
有名なのは、米シカゴ大のアレクサンダー・トドロフ教授らによる05年の論文。米国連邦議会の選挙結果を、候補者の顔立ちからうまく予測できるとの内容だ(https://doi.org/10.1126/science.1110589
米ダートマス大の堀内勇作教…