国境紛争を発端としたタイとカンボジアの軍事衝突は、民間人ら40人以上の犠牲を出し、米国などの仲介で29日に停戦が発効した。その後も交戦が起き、不安定な状況が続くが、双方の思惑や残る課題について、専門家はどう見るのか。外山文子・筑波大准教授(タイ政治)、初鹿野直美・日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員(カンボジア地域研究)、浅見靖仁・法政大教授(タイ政治)の3氏に聞いた。
F16投入のタイ軍、国民に権威アピールか 外山文子氏
7月24日にカンボジアとの衝突が本格化して以降、タイ国内は「挙国一致」の様相だ。戦闘開始のきっかけは不明だが、人権派や改革勢力ですら自国軍を後押しする姿勢をみせ、SNSには「タイは被害者で、領土を防衛しているだけだ」との主張があふれる。権威主義的で情報発信に消極的なカンボジアと、自らの主張を国外に拡散する力の差は大きい。
タイの政治は移行期にある。国民の支持を集める革新政党は、王室や軍の改革を掲げる。それを阻止しようと、タイで長く既得権層を形成し、王室や軍に近い保守派は、宿敵のタクシン元首相と組んで現政権を組織した。だが、連立政権内で争いが絶えず、軍主導のプラユット政権時代を懐かしむ声が保守派で高まるなか、衝突は起きた。
今回の戦闘では、民間人に多数の犠牲が出たとはいえ、F16戦闘機まで出撃させたタイ軍の対応は過剰だった。戦況に国民の注目が集まる中、衝突を利用して軍の権威をアピールしたのではないか。
外山氏は続けて、保守派の動きについて語ります。記事後半では、さらに2人の識者がカンボジア側の思惑や経済面への影響、米中関与の意義などを解説します。
タイ軍は文民統制が十分機能…