スペイン南部セビリア市内にある、かつて万博で使われた茶色いビル。中に入るオフィスの一室で、男性が机の上のパソコン画面に時折目をやりながら、手にしたスマートフォンでSNSアプリを操作していた。画面を流れるコンテンツを眺める。だが「見ている」のは、その背後で動くアルゴリズムだ。
ここは、欧州連合(EU)が2023年に発足させた「欧州アルゴリズム透明性センター(ECAT)」。SNSの仕組みが偽情報の拡散につながっていないかなどを監視する機関だ。
無料で提供されるSNSは、広告収入を増やすため、利用者の目線を釘付けにし、広告の視聴時間を最大化しようとする。活躍するのがアルゴリズムだ。エンゲージメント率(投稿に対する反応の多さ)や、利用者の「いいね」などのデータをもとに、表示される投稿の順番や「おすすめ」などを決める。
この仕組みが時に、偽情報などが拡散する「起爆剤」となる。真偽不明だったり過激で感情をあおったりする投稿の表示を増やすことがある。アルゴリズムが偏っていれば、利用者が目にする情報も偏り、「ネット世論」が操作されかねない。
この問題に向き合ったEUは、利用者保護を目的に、SNS運営会社などプラットフォーム企業に透明性や責任ある対応を義務づけるデジタルサービス法(DSA)を制定。昨年2月、全面施行させた。
調査機関として発足したECATはスペイン・セビリアを拠点に、イタリアとベルギーにもオフィスを構え、計37人のエンジニアやデータサイエンティストがチームを組む。
監視の手法は意外にアナログだ。DSA違反の疑いで正式に調査する前は、初めは職員が自らSNSアカウントを作成し、疑わしい動きを探す。
たとえば選挙で、ある候補者の偽情報が広く拡散されていれば、誰の投稿が起点となり、なぜ広がったのか。どんな情報が引用されたのか、SNSのおすすめ機能が拡散を後押ししていないか。一つひとつを丹念に追跡する。職員の一人はこう話した。「まるで覆面捜査官だ」
記事の後半では、公的機関の監視が「検閲」になる可能性はないか、SNSが民主主義に与えうるリスクはないか、考えます。
とはいえ、「偽情報」とは何…