Smiley face
写真・図版
強力な磁場を持つ天体「マグネター」から高速電波バーストが地球に届くイメージ©2024 Souichi Takahashi

 天文学者が頭を悩ませている奇妙な天文現象がある。その名は、高速電波バースト。一瞬だけ電波として光って消えるフラッシュ現象で、発見から20年近くたつが、正体ははっきりしていない。

30億光年先から届いた電波パルス

 2007年、米ウェストバージニア大のダンカン・ロリマー教授(天体物理学)は戸惑っていた。豪パークス電波望遠鏡が6年前にとらえた観測データの中に、ストロボのように数ミリ秒だけ非常に強く光る電波パルスが紛れていた。

 自転しながらビーム状の電波を発する天体「パルサー」かと思われたが、パルサーのように周期的ではなく、届いた電波は1回だけだった。

 驚いたのは発生源の遠さ。電波の特徴を調べると、太陽系のある天の川銀河内ではなく、30億光年もの遠方だった。これは、数ミリ秒の一瞬に太陽が数カ月に生み出すのと同じエネルギーで爆発したことになる。

 「当時はどう判断したらいいかわからなかった。困惑しつつも興奮していた」とロリマーさんは取材に答えた。新しい天文現象の登場として米科学誌サイエンスに発表した(https://doi.org/10.1126/science.1147532)。

写真・図版
奇妙な天体現象「高速電波バースト」

 これが、高速電波バーストの1例目だった。全天で1日1千回以上発生しているが、一瞬しか光らないため観測が難しく、発見は21世紀に入ってから。こんな天体が存在するとは誰も予想していなかった。

見せかけか、偽信号ペリュトンの出現

 今では1千例近く発見されているが、2例目の検出がなかなかできない。同じ方向から電波は来なかった。別の方向も同様で、観測できないまま数年が過ぎ、雲行きは怪しくなっていった。

 追い打ちをかける研究も出た。豪州の研究者が10年、1例目を検出した望遠鏡の過去データを調べると、高速電波バーストと特徴がそっくりの信号16個を見つけた。だが、夜空の複数の方向から届いており地球起源は明らかだった。

 ニセ信号は落雷などが原因とされ「ペリュトン」と名付けられた。人の影を落とす神話上の怪物のことで、信号は「見せかけ」という意味だ。最初に発見された高速電波バーストも偽物かと疑われ始めた。

 ロリマーさんはある学会の集…

共有