Smiley face
森茂起・甲南大名誉教授=2024年5月、神戸市、後藤遼太撮影

 戦争で心に傷を負った兵士が、帰国後に自分の子どもに暴力を振るい、幼い心を傷つける――。暴力の連鎖は、戦争トラウマ問題の核心です。なぜ、トラウマは世代を超えて伝わってしまうのか、トラウマ研究の第一人者の森茂起(しげゆき)・甲南大名誉教授(臨床心理学)に聞きました。

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 ――戦場で暴力にさらされた兵士たちは、どうして家族など他者に暴力を振るうようになってしまうのでしょうか。

 簡単に言えば、防衛本能です。「ピリピリして怒りっぽい」状態の方が、戦場で生き延びられる可能性が高まるからです。

 戦争や災害、犯罪など、生命が脅かされるような出来事によって引き起こされた心的後遺症が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)です。PTSDの主な症状の一つに、「過覚醒」があります。

 過覚醒状態の時、人は感覚が研ぎ澄まされ、緊張が続いてピリピリしています。次のショックを警戒して身構えている状態と理解できます。危機的な状況で動物が示す「闘争・逃走」反応です。

 戦場にいる間は、過覚醒の方が生き延びる可能性が高い。自分を脅かすものを攻撃し破壊するか、それとも逃げるか。いずれにせよ最大限に覚醒する必要があります。

 PTSDは、危機が去ってもこの反応から抜け出せなくなっている状態です。いら立ちから暴力が発生すれば、DVや虐待につながります。更に、鎮静剤として酒や薬物に頼る人も、多くいます。

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