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 1万5千人以上が体調不良、171人が死亡――。2月のインドネシア大統領選で、投票所の運営に関わった人々の健康状態について、政府が集計した。一体何があったのか。

 「あんなに元気だった夫が選挙で過労死するなんて、信じられない」

 そう話すのは、首都ジャカルタに暮らすニナさん(44)。夫のイオスさん(享年50)は2月14日の投開票日の夜、3人の息子を残してこの世を去った。地域の投票所の責任者だった。

投票所の仕事で体調を崩し、亡くなった夫のイオスさんと撮影した写真をもつニナさん=2024年3月7日、インドネシア・ジャカルタ、半田尚子撮影
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 インドネシアの選挙は、投票案内の配送から票の集計まで、選挙管理委員会の募集に応じた市民が担う。

 「政党に所属しないこと」が条件で、事前の研修や準備なども含めた1カ月間の契約だが、数日間の実働で最大120万ルピア(約1万1千円)が支払われる。国内の平均月収のおよそ3分の1にあたる金額だ。

 イオスさんは「生活の足しになれば」と仕事を引き受けた。有権者約300人が割り当てられた、自宅近くの投票所で計7人で働くことになった。

 普段は倉庫の警備員をしている。投票日前日は約6時間かけて投票所の設営をした後、夜勤へ向かった。

 妻ニナさんは「夫は若い頃、軍人を目指していた。体格もよく、体力には自信を持っていた」と話す。

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イオスさん(左から3番目)が責任者を務めた投票所のメンバー。雨の影響で、急きょ借りた小学校の教室が投票所になった=2024年2月14日、インドネシア・ジャカルタ、読者提供

 投票日を迎えたジャカルタは14日未明から早朝まで、大雨に見舞われた。

 10時間超の夜勤を終えたイオスさんは一睡もせず、雨の中、午前5時ごろから屋外に設置して投票所の復旧作業に当たった。

 結局、壊れたテントを修復できず、近くの小学校の教室を間借りした。

 午前9時、投票の受け付けを始めた。

 雨の後、気温は約30度まで上がり、湿度は80%を超えていた。教室にエアコンはなく、熱気がこもった。

 責任者のイオスさんには投票用紙や行政文書1枚ずつにサインする仕事があった。1千枚以上に署名し、周囲に「腕と肩が痛い。体がだるい」と訴えた。

日本の新聞紙より大きい投票用紙、投票先にはクギで穴

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インドネシアの首都ジャカルタで2月14日、投票所で開票作業に当たる人々=ロイター。段ボール製の投票箱から投票用紙を取り出している

 投票終了は午後1時。その後…

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