急速に進む高齢化の中、「入れ歯が欲しくても手に入らない」という日が来るかも知れない。作り手の歯科技工士は不足し、「時給600円程度」と苦境を訴える声がある。取材を進めると、背景にはゆがんだ業界の仕組みがあった。
「本当にやりがいもあって良い仕事だと思う。でも、人間としてまともな生活ができるくらいの余裕はほしい」
大阪府内で歯科技工所を営む男性技工士(51)は、ため息をついた。技工士の妻(50)と2人で、ビルの一室で入れ歯やかぶせ物を約10年間つくってきた。
「まじめにやろうとするほど苦しい」
特殊な道具を使いながら、一つ一つ手作業。スタッフと3人で毎日、10時間近く細かい作業を続けるが、保険による総入れ歯を作って受け取る収入は2万円あまり。生活はぎりぎりだ。6月末の銀行の預金残高は13万円足らずで、妻は「時給に換算すると600円くらい」という。
夫婦は技術向上のため各地の学会に足を運び、納得するまで修正することなどを理解してくれる歯科医からのみ受注する。「患者の体の一部をつくる技術者のプライドです。でも、まじめにやろうとするほど苦しい状況」と妻は声を落とす。
入れ歯作り、大きく2種類
入れ歯作りは、保険診療と自…