夏の甲子園に初めて乗り込む札幌日大(南北海道)には、力強い応援の後押しがある。北海道内屈指の吹奏楽部が、甲子園行きを決めた試合でも演奏したオリジナル応援曲2曲と声援を背に受け、8日の1回戦に臨む。
南北海道大会準決勝の北照戦は、両者一歩も譲らぬ投手戦。0―0のまま迎えた六回裏、得点圏に走者を進めると、ドラムの小刻みなリズムから始まるオリジナル曲「ブレイクスルー」がエスコンフィールド北海道に響き渡った。高橋諒太選手の適時打で均衡を破ると、この1点が決勝点に。
札幌日大の初優勝の起爆剤となったのは、この「ブレイクスルー」と「Nichidai Pride」の2曲。同校の吹奏楽部は例年100人規模の部員がいて、全国大会の常連校。野球部の応援にも毎年かけつけていた。だが、高い技術で演奏しながらも、選手ごとに曲を変えていたため、生徒たちが応援についていけなかった。
2018年夏、打開しようとしたのが浅利剛之校長だった。「声を出しやすい一体感のある応援ソングをつくってほしい」と、大学で作曲を専攻している吹奏楽部の卒業生、山本真幸さん(26)に作曲を依頼。山本さんはオリジナル性にこだわり、学校の校歌のフレーズを採り入れるとともに、トロンボーンのグリッサンドを多用し、打楽器パートに精密なアクセントをつけるなど吹奏楽部のレベルの高さを生かす曲を翌年の夏に仕上げた。
それでも、その秋の全道大会決勝など甲子園を決める試合で勝ちきれず、「威圧できるほど盛り上がる曲が欲しい」と22年の夏にもう1曲依頼。翌年完成したのが「ブレイクスルー」だった。
曲のタイトルをつけたのも浅利校長だ。長年決勝の壁を破れず、悔し涙を流す生徒たちを見てきた。「全校一丸となってその壁を破ろう」。強い願いを込めた。
かけ声が複雑で、はじめは浸透しなかった。この夏は、なんとしても壁を破ろうと全校で応援練習を重ね、チャンスをつかみとった。
吹奏楽部からは部員の約半数の50人が甲子園を訪れる。そのうちの1人、大西純花さんは「野球応援だからといって、それぞれのパートがただ大きい音を出すのではなく、良い音色にこだわっている。甲子園という大きな舞台で日大サウンドを響かせたい」と胸を弾ませる。
卒業生や校長、そして吹奏楽部、みんなの思いがこもった応援曲をアルプススタンドに響き渡らせ、選手たちに流れを呼び込む。そして、初出場で初勝利という壁も破ってみせる。(鈴木優香)