八方美人じゃ、だめですか――。
出会った客同士が杯を交わしながら、そんな身の回りの素朴で哲学的な問いをともに考える「哲学対話バー」が東京・歌舞伎町に6月、オープンした。
哲学と言っても知識は不要で、平易な言葉で自由に考えを語り合う。哲学対話は、元々学校などで実践されてきた取り組みで、近年は多方面に広がっている。
ネオンがまぶしい歌舞伎町の雑踏を抜けた、雑居ビルの一角に「哲学対話バー Kisi」はある。
同月中旬の夜に訪ねると、ゆったりと音楽が流れる店内に、20~50代前後の客が6人ほどいた。
この日、一つ目の問いは「八方美人は悪いことなのか? 悪いとしたら、何が悪いのか」。カウンターの中のボードに問いが書き込まれ、対話が始まった。
「誰にでも取り入る一貫性のなさが悪い」「バレなきゃ問題ないのでは」。話を引き出し、進行するファシリテーターを務めるバーテンダーのもと、それぞれが思ったことを話し出す。
「一貫性がないこと自体より、それゆえ相手の発言が本心か分からず信用できないことが問題」「でもそれって柔軟性があるとも言える。どう違うんだろう?」
簡単なようで、掘り下げがいがあるお題。1時間弱の対話を終え、参加者らは「悪いと思っていたけど、違う考えもあって新鮮」「職場にいる八方美人な人への見方も変わりそう」と満足げだった。
バーと「哲学対話」の意外な親和性
哲学対話は、参加者が問いを…