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ミロが手形を使って描いた1945年制作の「夜の女」=東京都美術館、山本倫子撮影

 スペインが生んだ20世紀美術の巨匠ジュアン・ミロ(1893~1983)。画業の全貌(ぜんぼう)を紹介する展覧会が上野の東京都美術館で開かれている(朝日新聞社など主催)。見る人を魅了する明るく伸びやかな作品の陰には、20世紀の激動の歴史を経験したミロの、自由を求める強い思いがあった。

 作品の前に座り込んで自分も絵を描きだす男の子。全身を伸ばして彫刻に近づこうとする赤ちゃん。3月末、東京都美術館で開催中のミロ展で子どものための特別公開があった。

 生前ミロは「子どもたちはより率直に(私の作品に)打たれる」と喜んでいた。ミロ作品への子どもの反応は今も昔もまっすぐで鮮やかだ。

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子どもの視線を集めるカラフルでユーモラスな人物像=東京都美術館、山本倫子撮影

 見る人を楽しい気持ちにする源は、ミロが作品に込める「遊び心」だ。子どもの視線を集める彫刻は、イスや金属のふたを組み合わせて作った。日用品でできた人物たちはどこかユーモラスだ。

 奔放な発想は絵画でも随所に見られる。自分の名前「MIRÓ」のつづりを人物像と一体化させた絵文字を描き込んだり、アルミ箔(はく)や針金など異素材を貼り付けたり。自分の手形を画面に直接スタンプした作品もある。「あらゆる絵画上の慣習から自由になるんだ」と語っていた。

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ミロが手形を使って描いた1954年制作の「雲間から覗(のぞ)く空が希望を与える」=東京都美術館、山本倫子撮影

 「『自由であること』はミロにとって特別な意味があった」とミロ財団のマルコ・ダニエル館長は語る。遊び心に富んだ明るい作風とは裏腹に、ミロは20世紀ヨーロッパの暗く厳しい時代を生き抜いた芸術家だった。

 1936年、43歳の時に母国スペインで内戦が勃発。共和国政府とフランコ将軍率いる反乱軍が争うなか、ミロは身の危険を感じてパリへ逃れる。だが、共和国側に加担した咎(とが)で帰国が困難になった。友人の中には収監される者もいた。続いて第2次大戦が起きると、描きかけの作品をかばんに詰め、幼い娘の手を引いてフランスを転々と避難した。

 何とか帰国を果たすも、戦後は、フランコ政権に反体制的とみなされた故郷・カタルーニャへの弾圧を経験。公の場でのカタルーニャ語使用は禁止され、集会も制限された。国際的に評価されても国内美術館での発表の機会はほぼなく、画廊での作品のお披露目にも深夜に隠れて集まらなければならなかった。

 前述のダニエル館長は分析する。「この苦難こそがミロの自由で奔放、時にユーモアを織り交ぜる独自の作風を生み出した。そこには美術の決まり事にも、政治的な惨禍にも屈しない、何事にも制限されないという強い気持ちが表れている」

 ミロは自分だけでなく、人々の心も解き放つ芸術を目指していた。「三千年後に私の絵を見た人が、私が絵画だけでなく人間の精神を解放する手助けもしたことを、理解してくれればと思う」

 ミロ展出口に設けられたボードには、子どもだけでなく、たくさんの大人の感想も並ぶ。「宇宙を旅したような気持ち」「何が描いてあるかよくわからないけれど、元気になった」「ミロと友達になれそう」――。21世紀の私たちの素直で率直な心の声を見たら、ミロはきっと喜んだだろう。

上野の東京都美術館で「ミロ展」 7月6日まで

◇7月6日[日]まで、東京・上野の東京都美術館。午前9時30分~午後5時30分。金曜日は午後8時まで。入室は閉室の30分前まで。月曜休室

◇一般2300円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1600円。18歳以下、高校生以下無料

◇問い合わせ ハローダイヤル(050・5541・8600)

主催 東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、ジュアン・ミロ財団、朝日新聞社、テレビ朝日

協賛 DNP大日本印刷、竹中工務店、関電工

協力 スペイン大使館観光部、カタルーニャ州政府観光局、日本航空、日本貨物航空、ルフトハンザ カーゴ AG

特別協力 FCバルセロナ

後援 スペイン大使館、インスティトゥト・セルバンテス東京、J-WAVE

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