袴田巌さんは、初めて再審(裁判のやり直し)を請求してから無罪と認められるまで、43年もの年月を費やした。再審制度はこのままでいいのか――。法相の諮問機関である法制審議会の部会が、見直しに向けた検討を始めた。郵便不正事件で冤罪(えんざい)被害に遭い、法制審に関わった経験もある元厚生労働次官の村木厚子さん(69)はいま、何を思うのか。
- 再審制度の改革、実現できるか? 法制審に厳しい視線が注がれる理由
――部会の委員には、静岡地裁の裁判長として袴田さんの再審開始を初めて認めた村山浩昭弁護士や、大崎事件の再審請求などに関わってきた鴨志田祐美弁護士も就きました。
「その点は評価しています。ただ、冤罪被害者などの市民代表が選ばれなかったのは残念です。村山さんも鴨志田さんも、しっかりと発言される方たちですが、改革に前向きな委員が少数派であることは間違いありません」
家庭教師つけて「予習」
――村木さんは、取り調べの可視化などを検討した法制審の特別部会(2011~14年)で委員を務めた経験をお持ちです。
「当時は私や映画監督の周防正行さん、連合事務局長だった神津里季生さんら、専門家ではない5人が委員に入りました。一般有識者とも呼ばれた私たちの役割は、市民感覚を持ち込むことだと考えました」
「改革派は少数派です。無視されないように、自分と同じ考えを誰かが発言したら黙っていないで賛意を表明しようと、他のメンバーに呼びかけました。発言に誤りがあれば無視する理由を与えてしまうと思い、弁護士に家庭教師をお願いして、毎回予習して臨んでいました」
――最終盤には、市民委員5人で意見書も出しています。
「当時の焦点は、取り調べの録音・録画を義務づける範囲でした。私たちは全面可視化を求めましたが、警察や検察側は反対でした」
「結局、裁判員裁判の対象事件や検察の独自捜査事件に限定されることになりましたが、一定期間が経過した段階で法律を再度見直す必要性も明記されました。可視化義務づけの導入は大きな一歩だと考え、答申案には賛成し、全会一致で承認されました」
法務検察当局「コントロールしたいという強い意思」
――議論に参加して、どう感じましたか。
「驚いたのは、多くの委員が…