朝日歌壇

うたをよむ 川野芽生

歌壇俳壇面のコラム「うたをよむ」。今回は歌人の川野芽生さんが、小原奈実さんの第1歌集「声影記」(港の人)を取り上げ、「鋭い観察眼に裏打ちされた写実は極めれば幻想へ接近していく」と論じます。

 灯さずにゐる室内に雷(らい)させば雷が彫りたる一瞬の壜 『声影記』

 小原奈実の第一歌集『声影記』(港の人)が刊行された。待望の、という言葉がこれほど相応(ふさわ)しい歌集も他にあるまい。

 端正な文語で構成される、理知的な文体。鋭い観察眼に裏打ちされた写実。それが暴き出すのは、写実は極めれば幻想へ接近していくという事実である。顕微鏡が発明された時に人々を襲った驚きはこのようなものであったろうか。

 暗い部屋に稲光が差し込むと…

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