朝日俳壇

俳句時評 岸本尚毅

 歌壇俳壇面で月1回掲載している、俳人の岸本尚毅さんの「俳句時評」。今回は俳句の世界でも広く使われる「写生」の概念など「俳句の存在そのものを疑う」姿勢が特徴的な俳人・宇井十間さんの近刊を紹介します。

 俳句とはどんな詩だろうか。正岡子規の〈鶏頭の十四五本もありぬべし〉は、鶏頭の様相が見えるような気がする。このような俳句の俳句らしさを、宇井十間(とげん)は「現前性」という。

 宇井の近刊『俳句以後の世界』(ふらんす堂)は、俳句の本質を問うて思索する過程を明晰(めいせき)に書きとめた評論集。俳句史を踏まえつつ俳人を論じるスタイルは俳句評論の典型だが、「俳句の存在そのものを疑う」姿勢が特徴的だ。

 本書の懐疑は、広く流布する…

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