うたをよむ 市村栄理
朝日新聞歌壇俳壇面のコラム「うたをよむ」。今回は、市村栄理さんが、戦時下で詠まれた句を取り上げます。
間もなく戦後80年の終戦忌だが、世界では人間の愚行である戦争が絶えない。
学兵汝(なれ)吾が仰ぎ目に息白き
冬日見詰めて涙を支ふ下瞼(したまぶた)
中村草田男、昭和19年の作。戦況が困難を極め、成蹊高校の教え子をついに戦場に送り出すことになった際の句だ。戦地に征(ゆ)く学生の涙をためる姿をありのままに表現。出征を運命として受け入れる学徒の辛(つら)さに寄り添い、見守る教師の情が伝わってくる。国家総動員法の下、自由主義者と見なされ圧力を受ける中、ぎりぎり許された表現であった。
勇気こそ地の塩なれや梅真白…