ここは堺市の大阪刑務所。7月上旬、作業場の織り機で3人の受刑者が江戸期から続くという厚手の敷物「堺緞通(だんつう)」を織っていた。大阪府の無形民俗文化財だが、いま、一般の人が手に入れられるのは、この3人が手がけた作品だけだ。
3人のうちの2人が1組で刺繡(ししゅう)していたのは、葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」。見本の絵図を見ながら黙々と手を動かし、干したそうめんのような縦糸に、色がついた横糸を織り込んでいく。
今春に作業が始まった作品で、年末に予定通りに完成すれば縦131センチ、横195センチの大作になるという。
最後の名人、亡き後に
緞通は中近東から中国を経て日本に伝わったとされ、堺と佐賀の鍋島、兵庫の赤穂の品が日本の「三大緞通」と呼ばれる。
堺では19世紀前半に糸物商が売り出し、19世紀末には地域の生産戸数が3千を超え、年間89万畳分が流通したとされる。
一時は海外にも盛んに輸出さ…