利尻山山頂にてサトキくん(右)と=2024年4月3日、利尻島、本人提供

野村良太の山あり谷あり大志あり:12

2022年に前人未到の北海道分水嶺(ぶんすいれい)積雪期単独縦断を達成し、28歳で植村直己冒険賞を受賞した道内の山岳ガイド野村良太さんのコラム(紙面は北海道支社版掲載)です。

 早朝に起きると、予報に反してホワイトアウトしていた。今日は必ず晴れるから、と予報を信じて出発する。利尻山(標高1721メートル)の山頂まであと少しのところまで登っても視界が開けない。わずかなくぼ地に身を寄せて、パートナーの吉田智輝(さとき)さん(34)と雑談しながら天候回復を待つことにした。

 海抜0メートル地帯から山頂まで自力で登る「Sea to Summit(シー・トゥー・サミット)」(STS)。4月、利尻山STSで同行したサトキくんは4歳年上で、世代が近いこともあって話が合う。好きな音楽や映画、お笑い芸人、最近読んだ本から高校、大学時代のことまで。寝食を共にし、ときには極限の判断を迫られる登山において、パートナーとの連係は必要不可欠だ。話が弾み、気がつくと2時間近く経っていた。

 山頂直下でのティータイムは青空が見えてきたら中断だ。ようやく雲が切れて、眼下に360度の海が広がった。いま僕は、利尻島で一番高いところにいるのだと実感する。山頂で写真を撮り、硬い雪を少し下ったところでスキーに履き替えると、ここからがお楽しみの時間だ。雪に埋まった沢の中をさっそうと滑り降りる。雪が途切れるところまで進むと、もう海は目の前だった。

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 利尻山STSを満喫し、打ち…

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