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昌平―叡明 ガッツポーズをする叡明の増渕隼人投手=2025年7月27日午後0時12分、県営大宮、折井茉瑚撮影

(27日、第107回全国高校野球選手権埼玉大会決勝 叡明5―2昌平)

 昨夏の埼玉大会5回戦。絶対的だと思っていた同級生の田口遼平投手(当時2年)が軽々と本塁打を打たれた。自分が助けに行ければ。でも、マウンドに立つことはできない。叡明の増渕隼人投手(当時2年)はスタンドにいたから。

 新チームになってからも「大事な試合を任せられるのは田口だけ」(中村要監督)という状況だった。増渕は昨秋の県大会初戦こそ先発したが、4回2失点で降板。以降、先発を任されたのは田口だった。

 悔しさが募る。だから目指したのは、「田口とは違うタイプのエース」。変化球も得意とする田口とは異なり、最速138キロの直球の球威で押し切る力投型を選んだ。今春は2人の継投で県大会準優勝をつかんだ。

 そして迎えた夏。決勝・昌平戦。田口は25日の山村学園戦を158球で完投し、疲れが出ていた。「頼んだぞ」。増渕が先発マウンドに立った。背番号1を背負って。

 普段は淡々と投げるが、この試合では一球ごとに思わず声が出た。無失点に抑えた回ではガッツポーズも見せた。長打を許さない外角低めの投球は相手打線を翻弄(ほんろう)。五回に本塁打を浴びたが、8回を投げ一度も連打を許さなかった。

 どん底からここまで来られたのは自分一人の力ではない。だから自分がエースと呼ばれることには違和感もあった。でも、今日ははじめて納得できた。「甲子園でもエースに恥じない投球をしたい」

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