昨今では、どこを見ても認知症のことが出てきます。新聞やテレビにも認知症の話題が出ない日はないほどです。しかし、世間の話題としてわかっていても、自分が認知症であるか否か。いざ、医療機関を受診して検査を受けるとなると、まだまだちゅうちょする人が多いものです。あたり前ですが、一般的な社会問題としての認知症への理解が進むことと、自分の認知症の診断がつくこととの間には大きな心理的な差があります。今回も個人情報保護のために事実の一部を変更し、仮名で紹介します。
テレビ番組を見て不安に
今から15年ほど前のこと。世間ではやっと若年性認知症のことが話題になり始めたころの話です。
長年一人暮らしをしてきた高階裕子さん(62歳、女性)は、テレビ番組で、タレントの男性が若年性認知症の診断を受ける姿を見ていました。
バラエティーのコーナーで放送されたその番組は、何人かのお笑いタレントが病院で身体検査を受け、その結果から若年性認知症の可能性を探るものでした。
彼女は番組を見た瞬間こそ「悪趣味だわ」と思いましたが、そこに登場する医療機関が日本を代表する大学病院で、認知症専門医として名高い教授が出ていたため、次第に番組に引き込まれ、最後まで見てしまいました。
番組ではうっかり忘れが増えたという何人かのタレントが検査を受けた結果、ひとりが若年性認知症とわかり、家族の協力も受けて積極的に課題に取り組むようになったところで終わっていましたが、高階さんは番組を見終わった時から不安になってしまいました。
彼女は15年ほど前に夫と別れて一人暮らしです。息子がひとりいますが、学者となってイギリスの大学で教えているため頻繁に会えないのです。
■だめになっていく自分と向き…