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臨床心理士の東畑開人さん

東畑開人さんの「社会季評」

 夏の甲子園、沖縄尚学高校が全国制覇を成し遂げた。試合自体も素晴らしかったし、決勝時には道路から車が消えたとうわさされたように、NHK総合の瞬間最高視聴率(沖縄地区)が52.3%で、沖縄全体が大いに盛り上がったのも素晴らしいことだった。

 私もテレビの前で大応援しながら、15年前の春を思い出していた。それは沖縄から出場した興南高校が甲子園を春夏連覇した年であり、私にとっては大学院を卒業して沖縄に引っ越し、精神科デイケアで働き始めた春だった。

 精神障害を抱えたメンバーさんたちと、料理をしたり、トランプをしたり、おしゃべりをしたりしながら、一日を過ごす。昼休みはキャッチボールをし、ときどき公園でソフトボールの試合をする。当たり前だが、大学院ではソフトボールも料理も教わっていなかったから、私は毎日戸惑い、なじめずにいて、職場に居るのがつらかった。新しい土地での新しい人たちとの新しい仕事だったのだ。

 そんな春に、興南高校が破竹の快進撃を続けていた。デイケアで毎試合応援し、勝ち抜くたびに、メンバーさんもスタッフも熱は高まっていった。当初興味がなかった私も熱風に巻き込まれた。決勝戦なんかは本当に大騒ぎで、私も声をからし、手が痛くなるくらい拍手した。優勝が決まると、コーラで乾杯した。最高の気分だった。そして気づいた。私は既に皆と仲良くなっていて、その職場になじんでいた。一緒に緊張し、一緒に応援し、一緒に喜んだからだ。それ以来ずっと、甲子園沖縄代表のファンだ。

 勝利の熱風には人々を一つに…

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