振り返ると前日登った1839峰が右奥に輝いて見えた=8月22日午前6時10分、日高山脈襟裳十勝国立公園、本人提供

野村良太の山あり谷あり大志あり:16

2022年に前人未到の北海道分水嶺(ぶんすいれい)積雪期単独縦断を達成し、28歳で植村直己冒険賞を受賞した道内の山岳ガイド野村良太さんのコラム(紙面は北海道支社版掲載)です。

 今夏、日高山脈襟裳十勝国立公園に指定された日高山脈の最深部に、1839峰(標高1842メートル)という山がある。「イッパサンキュー」や「ザンク」などと呼ばれ親しまれるこの山は、端正な山容をしているにもかかわらず、ふもとから山頂が見えないこともあって名前がなく、旧標高が山名として定着している。北海道百名山のうちの一座で、登山道がある道内の山では最難関との呼び声も高い。

 昨年の夏、その「ザンク」をガイドしてもらいたいという男性から依頼が届いた。「北海道百名山の最後の山1839峰を来年、ガイド登山で達成したいと思っています。私は来月で70歳になり……」。メールにはこれまでのご経験などが併記されており、いくつかやりとりした後にお受けすることとした。

 1年後。初日はあいにくの天気で、しとしと雨の中を慎重に登った。北海道三大急登(きゅうとう)のひとつ、コイカクシュサツナイ岳の登りは、2泊3日分の水10㍑と食料、テントが入った荷物がこたえる。10時間雨に打たれ、テント場に着くころにはすっかり体が冷え切った。だが、男性の声には元気が十分残っている。「いつもはコーヒー派ですが温かいココアもいいですね」

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 翌日は13時間の長丁場だ…

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