冬になり、温かい汁物やご飯におすすめの食材がある。職人の技と、北前船がもたらす海の恵みが生み出した福井県敦賀市の特産「おぼろ昆布」。透けるほどの薄さがもたらすとろけるようなおいしさに、匠の神髄を感じる。
シャ、シャ、シャ。
作業場に手すきの音が響くたび、ふわっ、ふわっと薄い布のようなおぼろが宙を舞う。
台に座って右足で1枚の昆布を押さえ、左手で一端をつかんでぴんと張る。その昆布の表面に、右手に持つ包丁を走らせ、削っていく。手首はほとんど動かさず、右足で右腕を押すように。削るときには息を止めている。
「敦賀昆布」(同市)の職人、別所昭男さん(81)はその卓越した技能から、2020年度に国の「現代の名工」に選ばれた。「昆布は手でなく足で削る。そうしないと均一な薄さにならないんです」と話す。
原料となるのは北海道函館産の真昆布だ。酢漬けして使う。同社の森田貴之社長(51)は「北前船が運んだ昆布を、職人が加工して生み出した港町の敦賀を代表する食材です」という。
江戸時代、北海道でとれた昆布を乗せた北前船が日本海を南下し、敦賀に着いた。集積地として栄えた敦賀では昆布加工業が発展。市の調査では、宝暦年間(1751~64)におぼろ昆布の生産が始まっていたという。
ただ、発祥のいきさつは定かでない。職人らによると、保管していた昆布にカビが生えてしまい、その部分を割れた茶わんで削る過程で生じた端材の味が良く、商品化したのが始まりとの説もあるという。
市の調査報告では、加工職人は昭和50~60年代に600~700人でピークを迎えた。今は100人に満たないとみられる。それでも「生産量は8割ほどで日本一の産地」(森田社長)という。
関東出身の私には、おぼろよりもとろろ昆布になじみがあったが、人の手のかかり方も違った。とろろ昆布は端材などを集めてブロック状にした昆布の側面を削って糸状にしたもので、ほとんどが機械化されているという。一方でおぼろ昆布は一枚一枚、職人の手で削り出す。熟練の職人でも1日に4キロしか作れない商品もあるという。
別所さんの昆布は、最も薄いもので0・01ミリ。できたてのおぼろを口に含むと、瞬時にとけてうまみが広がる。
さらに、別所さんにしか生み…