知財高裁や東京地裁の商事部などが入る「ビジネス・コート」=2023年3月28日、東京都目黒区、田中恭太撮影

 豊胸用の薬剤の特許を侵害されたとして、東京都内の医療機器販売会社が都内の美容クリニックの医師を訴えた訴訟の控訴審判決が19日、知財高裁(本多知成裁判長)であった。判決は、請求を棄却した一審・東京地裁判決を取り消し、特許権侵害を認めて医師に約1500万円の賠償を命じた。

  • 設立20年の知財高裁とは 「一太郎」で初判決、ビジネスに影響力

 問題となった豊胸用の薬剤の特許は①本人からとった血漿(けっしょう)②細胞の増殖を促す薬剤③栄養剤――を混ぜる、というもの。

 原告の会社は、被告の医師が2021年、①~③をすべて混ぜた薬剤を患者の胸に注入したことが特許権の侵害だと主張。医師側は、①②を混ぜた薬剤と、③を含む薬剤を別々に注入したなどとして、特許権は侵害していないと反論した。

 特許法は、特許の対象を「産業上利用できる発明」と定め、医薬品も対象に含まれる。ただ、病気の治療のために医師らが調剤する場合は、特許の対象外とされている。

 知財高裁では、人からの採血や調剤を伴う今回の薬剤が、特許の対象になるのかが争われた。

 判決は、採血などを伴う医薬品であっても、人の生命や健康の維持のために製造されるため「技術の発展を促すために特許による保護を認めるべきだ」と指摘。そのうえで、今回の薬剤は美容目的だが、「産業上利用できるもの」として特許は有効だと判断し、医師による特許権侵害を認めた。

 医師に対しては、問題の薬剤を使った豊胸手術の売り上げ約1億7千万円のうち一部の賠償を命じた。

 この訴訟は、知財高裁で重要な事件を通常より2人多い5人の裁判官で審理する「大合議」の対象だった。第三者の専門家から広く意見を公募する制度も使われた。

 原告側代理人の大野聖二弁護士は「画期的な判決で、今後の医療に関する特許に関して重要な意味を持つ判決だ」とコメントした。

共有
Exit mobile version